第8話:花かごの調べ

午後を迎えた「花かご」は、さらに活気づいていた。扉が開くたびに、新しいお客が入ってきては花を手に取り、その美しさに感嘆の声をあげる。店内を彩る多彩な花々が、まるで訪れる人々を歓迎しているようだった。


ラジオからは、心地よいジャズの音楽が流れていた。軽やかなピアノの旋律が、店内の明るい雰囲気を一層引き立てる。「花かご」の中では、音楽が花と共に空間を満たし、自然と笑顔がこぼれる。


「この曲、なんだか懐かしい感じがしますね。」常連の一人が、花を選びながら話しかけてきた。


「ええ、素敵な曲ですよね。ラジオで紹介されたんですけど、私も気に入って流しています。」千代は優しい声で応じた。ラジオはただの音楽を流すだけではなく、店とお客をつなぐ重要な役割を果たしていた。


「今日は賑やかですね。」

「ラジオのおかげかしら。」千代は軽く笑った。花かごが賑わう理由は一つではない。季節の移ろいを知らせる花々、千代の心のこもった接客、そして店内に流れるラジオの調べ。それらが織りなす空間が、訪れる人々に安らぎを与えているのだろう。


扉のベルが鳴り、小さな女の子が母親と一緒に入ってきた。女の子の目がキラキラと輝き、まっすぐに花を見つめている。「お母さん、これがいい!」と、ピンクのガーベラを指差した。


「素敵な選択ね。」千代がそっと声をかけると、女の子は少し照れくさそうに笑った。その瞬間、店内にいる人々も自然と微笑む。


ラジオの音楽が一段と大きく感じられるような気がした。それは、花かごが生み出す温かな空気と調和し、この場所を訪れるすべての人々の心を和ませているからだろう。


千代は花束を包みながら、ラジオにそっと感謝の思いを抱いた。この店の賑わいを支える一つの大切な存在として、これからも音楽と共に日々を紡いでいこう、と静かに心に誓った。


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