第5話:好きなことを続ける意味

閉店間際、店内は穏やかな静けさに包まれていた。千代はカウンターに並んだ空の花瓶を片付けながら、ふとラジオに耳を傾けた。司会者の軽やかな声が響く。


「本日のテーマは『好きを仕事にする大切さ』です。夢を追いかける皆さんからたくさんのメッセージをいただいています。」


その言葉に、千代の手が止まる。自然と、ラジオの内容に引き込まれていった。


「好きなことを仕事にするのは決して簡単な道ではありません。でも、心から好きだと思えることがあるなら、それを仕事にできたときの充実感は何物にも代えがたいものです。」


その言葉は、まるで千代自身へのメッセージのようだった。


花が好きで始めたこの仕事。最初はただ、「花が好き」という気持ちだけだった。実家の庭に咲く花々を見ては名前を覚えたり、その花の香りや色に心を躍らせていた。そんな自分が今、花屋という仕事を通じて、人々に喜びを届けている。その事実が、千代の心を温かく満たしていく。


ラジオは続ける。「もちろん、好きなことを仕事にするには苦労もあります。でも、それを乗り越えた先には、自分だけでなく周りの人にも笑顔を与える力があるんです。」


千代は、今日一日を思い返した。花を手にしたお客さんの笑顔、ラジオを通じて広がった会話、そして賑やかな店内の雰囲気。それらすべてが、自分の好きなことを続けた結果だと思うと、改めてこの仕事を選んで良かったと感じた。


「明日も、たくさんの人に花と笑顔を届けよう。」そう心に決め、千代は最後の花瓶を棚に戻した。店内にはラジオの音が優しく響き、彼女の決意を後押ししているようだった。


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