第4話:響き渡る音色

午後の日差しが窓から差し込む中、花かごの店内はますます活気を帯びていた。カウンターの上には、作りたての花束やアレンジメントが次々と並び、千代の手は休む間もなく動いている。それでも、店の空気は穏やかで、忙しさの中にも温かさがあった。


ラジオからは司会者の軽快な声が響いてくる。


「さて、次はリクエスト曲です。お花屋さんの千代さんからいただきました。いつも素敵な花に囲まれたお仕事、うらやましいですね!」


その瞬間、店内が少しざわついた。常連客が「今、千代さんの名前が!」と笑いながら話しかけてくる。千代は顔を赤くして「そうなんです、たまたまリクエストした曲が採用されたみたいで」と恥ずかしそうに答えた。


曲が流れ始めると、店内にいた人々の表情がほころび、自然と会話が生まれる。ある女性客は「懐かしい曲ですね。この歌を聴くと、学生時代を思い出します」と語り、別の客は「この歌が流れると、なんだか明るい気分になりますね」と笑顔を見せた。


花を買い求める人々の声と、ラジオから流れる音楽が溶け合い、花かごの店内は一層温かい雰囲気に包まれていた。


常連の男性客が千代に話しかけてきた。「このラジオ、いつもいい音楽が流れてますね。店の雰囲気にぴったりですよ。」


「ありがとうございます。このラジオがあるだけで、店が少し特別な空間になる気がして。」


千代の言葉に、男性は「音楽と花、最高の組み合わせですね」と頷いた。その瞬間、千代は改めてラジオがもたらす力の大きさを感じた。


日が暮れるころ、店の賑わいは少し落ち着いたが、ラジオは変わらず柔らかな音を響かせていた。千代はふと立ち止まり、店内を見渡す。音楽に包まれた空間で、花を手にした客が笑顔を浮かべて帰っていく。その姿に、自分の仕事が誰かの心に届いているのだと実感するのだった。


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