第3話:新しい訪問者
ラジオから流れる軽快な音楽が、花かごの店内を包み込んでいた。週末を前にして、店内はいつも以上に賑わっている。誕生日や記念日、ちょっとした贈り物を探しに来る人々が、ラジオの音に耳を傾けながら花を選んでいる光景が広がっていた。
「この花、香りが素敵ですね。」若い女性客がカスミソウを手に取りながら千代に話しかけてきた。
「ええ、控えめだけど品がある香りですよね。アレンジのアクセントにもおすすめです。」
千代がそう答えると、女性は嬉しそうに笑みを浮かべて、「ぜひこれで花束をお願いしたいです」とリクエストした。
一方、入口のベルが軽やかに鳴り響く。ふと顔を上げると、少し背の高い男性が入ってきた。見慣れない顔だったが、落ち着いた雰囲気を持つ彼は、少し緊張した様子で店内を見回している。
「いらっしゃいませ。」千代が声をかけると、彼は少し驚いたように振り返り、照れくさそうに笑った。
「実は、ラジオを聴いてこちらのお店を知りました。花のことは詳しくないんですが、贈り物を探していまして。」
その言葉に千代は微笑んだ。「どなたにお渡しするんですか?」
「職場の先輩なんです。お世話になったお礼として、何か心が伝わるものをと思いまして。」
千代はその言葉を聞いて、数種類の花を提案しながら丁寧に説明を始めた。ラジオが結びつけた新しい出会いに、店内の雰囲気はさらに和やかさを増していく。
「これにします!」男性が選んだのは明るいオレンジ色のガーベラと、落ち着いたグリーンのユーカリを合わせた花束だった。
会計を済ませ、花束を受け取った彼は、「また来ます」と力強く言い残して去っていった。
店内には再びラジオの音楽が響き、賑わいは続いている。常連客も新規客も、花かごが生み出す温かい空間の一部となっていた。
「今日もいい日ですね。」千代は花束を整えながら、ラジオに耳を傾けてそう呟いた。
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