第2話:求める人
ラジオから流れる穏やかなメロディーが、花かごの店内に温かみを添えていた。その音楽に惹かれるように、店には今日も様々な客が足を運んでくる。
「千代さん、この花束、少しアレンジをお願いできますか?」
一人の女性客が、持参した写真を見せながら相談を持ちかけてきた。千代はその写真を見ながら、「この組み合わせなら、優しい雰囲気が出ますね」と笑顔で答え、丁寧に花束を作り始めた。
隣では常連客の初老の男性が、棚に並ぶ花をじっくりと眺めている。「奥さんが好きだった花を買いに来たんですよ」と、少し寂しそうに言うその声に、千代は優しい言葉をかける。
「きっと喜ばれますよ。お好きだった色の花も一緒に入れましょうか?」
千代の手際よい仕事ぶりと心配りに、お客たちの表情は和らいでいく。
その中で、入口のベルが軽やかに鳴った。新しい客が入ってきたのだ。ふと目を向けると、昨日の青年が再び姿を見せた。彼は少し戸惑いながらも、店内を歩き回り、花を一輪ずつ見つめている。
「また来てくださったんですね。」千代が声をかけると、彼ははにかんだ笑顔を見せた。
「昨日、花を贈った相手がとても喜んでくれて。それで、また違う花を選びたくて。」
その言葉に、千代は心が温かくなるのを感じた。花が誰かの心を繋ぎ、その結果がこうして新たな出会いを生む。
ラジオの音楽が流れる中、次々と客が入ってきた。手土産として花を買う人、誕生日の贈り物を探す人、そして何気ない日常に彩りを添えるために花を求める人――花かごは多くの思いが交差する場所となっていた。
「花は、本当に特別ですね。」青年がぽつりと言ったその言葉に、千代は深く頷いた。
「ええ、花はいつでも、誰かの心に寄り添いますから。」
店内の賑わいとともに、ラジオからの優しい音色が途切れることなく流れていた。
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