第三章:ラジオの贈り物
第1話:新たな音色
花かごの店内は、いつものように穏やかな空気が流れていた。ラジオから流れる音楽は、千代が大切にしていたもの。修理を終えてから、その音色がますます心地よく感じられ、店を訪れる人々に温かさを届けていた。新しい一週間が始まり、店内には常連客が顔を出し、花を選びながら会話を楽しむ光景が広がっていた。
千代は花束を整えながら、ふと目をやった先に青年が立っていた。彼は少し躊躇いながらも、花を手に取り、そして再び棚を眺めている。彼の姿に、千代はなんとなく気づいていた。彼が花を選ぶのは、ただの買い物ではないことを。
青年はラジオの音に耳を傾けながら、千代に近づいてきた。「このラジオ、修理されたんですね。」
「はい、ようやく。音が安定して、もう問題ありません。」千代は微笑んで答えた。「音楽が流れると、店の雰囲気も和やかになりますから。」
青年はうなずきながら、花を手に取った。「それで、今日はこの花を…」
千代はその言葉を待ち、彼の意図を少し感じ取ろうとする。青年は少し照れくさそうに言った。
「実は、初めて会う人に花を贈ろうと思っていて。こういうこと、慣れていないもので…」
千代はその言葉を聞いて、何か温かいものが胸に広がるのを感じた。青年が花を選ぶ理由、そしてその人への気持ちが何かしら伝わってきた。彼の気持ちが花とともに届くように、千代は慎重に花束を作り始めた。
「大丈夫ですよ。花は言葉を超えて、気持ちを伝えてくれますから。」
ラジオから流れるメロディーが、二人の会話を優しく包み込むように響いていた。
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