第27話:月曜日の訪問者
翌週の月曜日、千代は朝から花かごの店内を整えながら、心地よい静けさを感じていた。ラジオは先週、修理技師によって仮修理が施されてからずっと、穏やかな音楽を流し続けている。部品の到着を待つ間、その音に耳を傾けるのが何よりの楽しみだった。
すると、扉のベルが静かに鳴り響き、店に誰かが入ってきた。振り向くと、先週の青年が立っているのが見えた。千代は思わず顔を上げる。
「こんにちは、また来ました。」
青年はにっこりと笑いながら、ゆっくりと店に足を踏み入れた。今度は、先週とは違う雰囲気を持っているような気がした。どこか落ち着いた様子で、静かに歩きながら周囲を見渡している。
「ようこそ。今日はどうされましたか?」
千代が尋ねると、青年は少し照れくさそうに笑いながら答える。
「花を買いに来ました。」
それだけではなぜか、さらに気になる。千代は少し驚きながらも、花の棚へと案内した。
「花ですか?どんな種類をお探しですか?」
青年は少し考え込み、手を伸ばして花を一輪、慎重に選んだ。
「これ、好きなんです。」
それは、薄紫色の花びらを持つ、静かな魅力を感じさせる花だった。見た目がどこか穏やかで、心に響くような印象を与える。千代はその花を手に取って、青年に微笑みかける。
「素敵ですね。お似合いです。」
青年は花を手にしたまま、少し照れた様子で頷いた。
「実は、名前をまだお聞きしていませんでしたね。」
千代の問いかけに、青年は少し戸惑いながらも答える。
「私は、永井…永井慎一と言います。」
その名前を聞いた瞬間、千代はふと思い出した。確か、先週のラジオの音楽の話をしていたとき、青年が小さな笑顔を見せていたことを。彼がどこか心の隙間を持っていることに気づいた瞬間だった。
「永井さん、ありがとうございます。花を選んでくれて。」
青年は静かに頷き、花を大切そうに持ち続けた。その目に、少しの寂しさと、確かな希望が交じり合っているように感じた。
その瞬間、千代は心の中で、彼の訪れがまた一歩、何かの始まりだと確信した。
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