第26話:響き渡る静けさ
修理技師はラジオの内部に残る微細な不具合を直し、仮修理を施してくれた。千代はその様子をじっと見守りながら、何度も心の中で「ありがとう」と繰り返していた。修理が終わり、ラジオのスイッチが入れられると、最初に流れるのは、途切れがちだった音声の代わりに、穏やかなメロディーだった。
「これで、少しは安定しましたね。部品は来週までには手配できます。それまでは、仮修理の状態ですけど、音は聞けますよ。」
修理技師の言葉に千代は微笑んだ。確かに、ラジオの音は以前よりもはるかにクリアになり、雑音が消えていた。壊れた部品はまだそのままだが、それでも音楽が流れることで、店の空気がまるで別物のように感じられた。
「ありがとう。本当に、ありがとうございます。」
青年も感動した様子で、ラジオの音に耳を傾けていた。その瞬間、他の客たちも一斉に振り返り、ラジオの音に耳をすませる。
「懐かしい歌だね。やっぱり、ラジオっていいわ。」
常連客の一人が言いながら、ゆっくりと店内を歩き始めた。その言葉に、千代は心からの安堵を感じた。店の中に流れる音楽が、またひとつ、温かい繋がりを作ってくれたのだ。
修理技師は工具を片付けながら、最後に一言告げた。
「もうすぐ完全に元通りですから、少しお待ちくださいね。」
千代はその言葉を胸に、店内に目を向けた。花とラジオが、またこの場所に新たなリズムをもたらしてくれる。それは、思い出を蘇らせるだけでなく、訪れるすべての人々に安心感を与えていた。
ラジオの音が穏やかに響き、店の中に広がる時間が少しずつ柔らかくなる。千代は心の中で、母がこの店を始めた理由を再確認した。花と音楽が、こうして人々の心を繋ぐのだと。
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