第16話:動き出す決意

千代は地図を握りしめ、夕暮れの店内に立ち尽くしていた。静けさの中で聞こえるのは、壁掛け時計の規則的な音だけだ。陽の泉が示す場所を訪れる決意を固めたものの、彼女の胸には小さな不安が渦巻いていた。


「母がこの場所を探していた理由…それを私が見つけられるのだろうか?」


足元に目を落とすと、母が愛用していたガーデニング用の手袋が見えた。千代はその手袋をそっと拾い上げ、少し古びたその感触に母の温かさを感じた。


「お母さん、私もあなたみたいに強くなれるかな…」


その瞬間、ふと誰かの気配を感じた千代は、入口の方を振り向いた。そこには見覚えのある男性が立っていた。先日青い薔薇について話していった青年だった。


「また来てしまいました。迷惑だったらすみません。」


青年の声はどこかためらいがちだが、真剣な眼差しが印象的だった。千代は驚きつつも微笑み返した。


「いえ、そんなことはありません。それに、ちょうどあなたに聞きたいことがあったんです。」


千代は地図を取り出し、陽の泉と書かれた場所について尋ねた。すると青年は目を細め、少し考え込んだ後、静かに口を開いた。


「陽の泉…。確か、昔の言い伝えに出てくる場所ですね。でも、今ではその場所を知っている人はほとんどいないと思います。」


「そうなんですか?」


「はい。でも、偶然にも最近そのあたりで調査をしている知り合いがいます。場所を特定するのは難しいかもしれませんが、少し手伝ってもらえるよう頼んでみましょう。」


千代は驚きながらも、青年の申し出に感謝の言葉を口にした。


「ありがとうございます。ぜひお願いしたいです。」


その青年の助けを借りれば、母の残した手がかりを解明できるかもしれない。千代の心には再び希望の光が差し込んだ。


「じゃあ、明日またここに来ます。その時に詳しい話をしましょう。」


青年がそう告げて帰っていくと、千代は地図を胸に抱き、明日への期待に胸を膨らませた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る