第15話:手帳の導き

千代は母のメモ帳を開き直し、その一つひとつの文字に目を通した。母が何を考え、どんな気持ちで青い薔薇を育てたのかを知るためには、この記録が唯一の手がかりだった。


「青い薔薇は、真実の願いを受けて咲く…」


メモの中で繰り返し書かれているその言葉。しかし、具体的な方法や手順についてはほとんど記されていない。ただ、あるページの端にこう記されていた。


「鍵は光と水、そして心」


「光と水、そして心…?」


千代はその言葉を口にしながら、作業台の上に置かれた瓶やノートをじっと見つめた。母が長年かけて追い求めた答えを、千代も見つけ出すことができるのだろうか。


再び作業台の引き出しを探っていると、ある古い紙が出てきた。それは手書きの地図だった。見覚えのない地形が描かれており、地図の片隅には「陽の泉」という文字が記されている。


「陽の泉…これが青い薔薇と関係しているのかな?」


千代は地図をじっと見つめながら考え込んだ。母がこの場所を訪れたのか、それとも辿り着けなかったのか。その答えは記録には書かれていない。


「でも、きっとこれが母の最後の手がかりだわ。」


千代は地図を手に取り、もう一度作業台の周囲を確認した。母が残した他の資料と照らし合わせながら、この地図がどこを示しているのかを探ろうとしたが、手がかりは見つからなかった。


「やっぱり、実際に行ってみるしかないかも…」


千代はその地図をそっと畳み、胸にしまい込んだ。心の中に芽生えた小さな不安と期待を抱えながら、彼女は母の足跡を追い続ける覚悟を固めていった。


「陽の泉が何かを教えてくれるかもしれない。それに、この薔薇が咲く秘密も…」


母が遺した願いを引き継ぐため、千代は静かに立ち上がった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る