第17話:道しるべの兆し

翌朝、千代は早くから店の準備を整え、青年の訪れを待っていた。陽の泉という場所を追い求める気持ちはあるものの、地図だけでは具体的な場所に辿り着ける自信がなかった。それでも、母が残した手がかりを信じ、希望を胸に秘めていた。


「お待たせしました。」


扉のベルが鳴り、青年が現れた。その手には一冊の分厚い古書が抱えられていた。


「おはようございます。これ、参考になるかもしれません。」


青年が手渡した古書は、地域の伝説や歴史を記したもので、陽の泉についての記述もあるらしい。千代はページをめくりながら、そこに書かれた内容に目を輝かせた。


「陽の泉は、願いを叶える力を持つ場所。しかし、泉の輝きを引き出すには純粋な心と真実の願いが必要だ。」


「純粋な心と真実の願い…」


千代はその言葉を何度も噛みしめた。それは母がメモ帳に残していた「光と水、そして心」という言葉と重なるものだった。


「やっぱり、お母さんもこれを信じていたのね。」


千代がそうつぶやくと、青年は優しく微笑んだ。


「そうかもしれませんね。ただ、泉に辿り着くための手がかりはまだあります。地図とこの本を照らし合わせると、少しだけ場所が絞り込めるんです。」


青年は本から得た情報をもとに、地図上の可能性のある場所を指差した。それは千代の町から少し離れた、森の奥深くにある一帯だった。


「この辺りに行けば、何か見つかるかもしれません。」


青年の言葉に千代は大きく頷いた。


「ありがとうございます。一緒に来てもらうことって、できますか?」


「もちろんです。一人で行かせるのは心配ですから。」


二人の間に小さな信頼が生まれた瞬間だった。母の願いを受け継ぎ、その真実に近づくための旅が今始まろうとしている。千代の心は、少しずつ強さを取り戻していった。


「じゃあ、明日早朝に出発しましょう。」


青年の提案に千代は再び頷き、新たな決意を胸にした。陽の泉が示す真実と、母の思いを追い求める旅が、彼女を新たな道へと導こうとしていた。


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