第14話:願いを紡ぐ光

千代は母のメモ帳を抱えたまま、深く息をついた。青い薔薇は「願いを映す鏡」。その言葉が何を意味するのか、心に引っかかるものを感じていた。


作業台に戻ると、目の前に置かれた小さなガラス瓶に目が留まった。中には乾燥した花びらが数枚入っている。青く輝くその花びらは、どこか神秘的で、ただの植物とは思えないほどの存在感を放っていた。


「これが…青い薔薇の花びら?」


母が残した最後の薔薇の一部かもしれないと思うと、手に取るのも躊躇われた。しかし、今こそ母が遺した意味を探る時だと決意し、花びらをそっと手に取った。指先に触れた瞬間、ほんのりとした温かさを感じたような気がした。


「願いを持つ人がそばにいると咲く…その条件って、どういうことなんだろう?」


千代は考えを巡らせるが、答えは簡単には見つからない。ただ、この花が人々に希望を与える力を持っていることだけは確信していた。


ふと、母がよく言っていた言葉が頭をよぎる。


「花はただ飾るものじゃないの。心に語りかけて、人生を彩るものなのよ。」


母はいつも、花を売るだけではなく、それを通じて人々の心と向き合っていた。千代はその姿勢を思い返しながら、自分も母のように誰かの力になりたいという気持ちを抱き始めていた。


「私も、この花で誰かを救えるのかな…」


そうつぶやいた瞬間、手の中の花びらが微かに光を放った気がした。驚いて見つめるが、それはすぐに元の静かな姿に戻る。


「今のは…?」


母が遺した青い薔薇の力が、千代にも伝わり始めているのだろうか。彼女はその花びらをそっと瓶に戻し、決意を新たにした。


「もう少し、母の足跡を追ってみよう。」


千代は作業台の奥に積まれた古い資料に目を向けた。母の遺した青い薔薇の真実を解き明かすために、一歩ずつ進むしかないと思ったのだ。


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