第8話:消えない記憶
男性が去った後、千代はしばらく店のカウンターに座り込み、青い薔薇を届けた相手のことを考えていた。その男性が放った言葉や表情には、どこか重い過去を背負っているような気配があった。
「一体、あの花を誰に届けたかったのだろう…」
千代の心には、一抹の不安と好奇心が入り混じっていた。母の手紙が語る「真実の心」と、青い薔薇を求める人々の思いが重なるように感じられたからだ。
その日の午後、店を訪れる客の中に見慣れた顔があった。それは、近所に住むおばあさんだった。彼女は千代が子供の頃から店に通ってくれている常連客で、最近は体調を崩してあまり姿を見せていなかった。
「久しぶりね、千代ちゃん。少し寄りたくなってね。」
おばあさんはカウンターに腰を下ろすと、懐かしい話を始めた。彼女の穏やかな口調が千代の緊張をほぐしていく。
「そういえば、昔この店でお母さんが青い薔薇を作ったことがあったのを覚えているわ。その時も、特別な人に贈られたみたいだったわね。」
その言葉に千代は驚いた。母が青い薔薇を作ったことがあるとは、これまで聞いたことがなかったからだ。
「おばあさん、その時のことをもっと教えていただけますか?」
千代の真剣な表情に、おばあさんは目を細めて微笑んだ。
「さあ、詳しいことは知らないけれど、その花を受け取った人は本当に喜んでいたのを覚えているわ。何か大切な思いが込められていたのね。」
その話を聞きながら、千代の中に新たな疑問が生まれた。母が贈った青い薔薇は、誰のために作られたものだったのか。そして、それが母の遺した手紙とどんな関係があるのか。
「青い薔薇は、いつだって何かを伝えるためのものなんだわ。」
千代は自分自身の作る花に込められた意味を、改めて考え始めていた。そして、その答えを知るために、もっと多くの声に耳を傾けていこうと決心するのだった。
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