第5話:花言葉の行方

青い薔薇の注文が一件落着し、店内にようやく静けさが戻った午後、千代は再び手紙を取り出した。母が遺した言葉の数々は、自分が受け継ぐべき何かを示しているようだった。そして、青い薔薇を届けた男性の姿が頭から離れない。


「青い花の想い出…母さんが誰にこの手紙を書いたのかしら。」


店の時計が夕刻を告げると、千代はふと思い立ち、近所の花市場へ向かうことにした。青い薔薇が持つ「不可能を可能にする」という花言葉をもっと深く知りたかったからだ。市場で長年花を取り扱っている老人に話を聞くと、彼は優しい笑みを浮かべてこう言った。


「青い薔薇は昔から特別な花だよ。手にする人がそれを信じる限り、何かしらの奇跡を起こす力があると言われている。もっとも、それは花そのものじゃなく、贈る人の気持ちが大切なんだけどね。」


その言葉に千代は頷き、心の中で静かに反芻した。贈る人の気持ち――それこそが母が残そうとしたメッセージだったのかもしれない。


市場を後にして店へ戻ると、カウンターの上に見覚えのない封筒が置かれていた。そこには短いメッセージが記されていた。


「ありがとうございました。妹はとても喜んでいました。この青い花を見ていると、失われかけていた希望が蘇った気がします。また、何かお願いをするかもしれません。」


それを読んだ千代の胸に、静かな感動が広がった。自分が作った青い薔薇が、誰かの心に小さな希望の灯をともすことができたのだ。


「母さんがこの店を大事にしていた理由、少しだけ分かってきた気がするわ。」


千代はカウンターの花瓶に一輪の白い薔薇を挿しながら、そう呟いた。まだ解決していない母の手紙の謎。しかし、青い薔薇が持つ特別な意味と、自分がそれを伝える役割を担っていることを、彼女は感じ始めていた。


次は、どんな想いがこの店を訪れるのだろうか。千代の心に、小さな期待が生まれていた。

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