第4話:届かない手紙

青い薔薇を手にした千代は、その美しさに少しの誇りを感じながらも、どこか心がざわついていた。完成した花を依頼主に届けるだけでは終わらない予感があった。


その日の午後、千代は昼休みの合間に、母が使っていた机を整理することにした。青い薔薇の謎が、母に関係しているのではないかという直感があったからだ。机の中から出てきたのは、古い封筒だった。茶色く変色したその封筒には、細い筆跡で「青い花の想い出」と記されていた。


「これ…母の字だわ。」


千代は胸が高鳴るのを感じながら、そっと封を開けた。中には一枚の手紙が入っていた。その手紙は、誰かに宛てたものではなく、まるで日記のように綴られていた。



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「青い花。それは、私にとって特別な人への最後の贈り物だった。けれど、その想いは伝わらないまま時が過ぎた。もしもこの手紙を見つけたあなたが、青い花を誰かに贈るなら、どうかその想いを正直に伝えてほしい。」



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手紙を読み終えた千代は、静かに目を閉じた。母がこの店を大切に守ってきた理由が少しだけ分かった気がした。青い花は母にとって、誰かとの深い繋がりを象徴するものだったのだろう。そして、それが今もなお人々の心を繋ぐ架け橋として息づいている。


そのとき、店の扉が再び音を立てて開いた。顔を上げると、昨日花を求めて訪れた若い男性が立っていた。


「完成したんですか?」


千代は微笑みながら、慎重に青い薔薇を包んで差し出した。

「はい。きっとお妹さんも喜んでくださるはずです。」


男性は何度も感謝の言葉を繰り返し、花を抱えて去っていった。その後ろ姿を見送りながら、千代は胸の中に少しずつ広がる暖かさを感じた。


「母さん、この花はちゃんと人の心に届いているよね。」


青い薔薇の謎は、まだすべて解けたわけではない。しかし千代は、それが新しい物語の始まりであることを確信していた。

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