第19話:花が繋ぐ物語
男性が白いカーネーションを手にして店を出て行った後、千代はしばらくカウンターに立ち、静かに考え事をしていた。母が残したこの花屋が、こうして人々の記憶の中に生き続けていることが、何とも感慨深かった。
「お母さんがここで作った花束が、今も誰かの心に残っているなんて…」
ふと店内を見渡すと、並べられた花々が優しく揺れているように見えた。まるで母が「それでいいんだよ」と囁いているような気がした。千代はその温かな気持ちを胸に、明日の準備に取り掛かることにした。
しかしその矢先、またもや扉の鈴が鳴った。今度入ってきたのは、見覚えのある若い女性だった。以前、友人に花を贈るために訪れた女性だ。
「すみません、また来てしまいました!」
彼女は少し恥ずかしそうに微笑みながら、小さな紙袋を持っていた。
「いらっしゃいませ。今日はどうされました?」
「この間作っていただいた花束、友達がすごく喜んでくれたんです。ありがとうの気持ちを伝えたくて…これ、ささやかなものですがどうぞ。」
紙袋の中には、小さな焼き菓子の詰め合わせが入っていた。千代は驚きながらも、心からの笑顔でそれを受け取った。
「ありがとうございます。わざわざそんな気を遣わなくてもいいのに。」
「いえ、本当に感謝してるんです。千代さんが花を通じて伝えた思いが、友達にちゃんと届いたんだと思います。」
その言葉に千代は胸が熱くなった。花屋を営む中でこうして人と人が繋がり、自分もその一部になれる――それが何よりの喜びだと改めて感じた。
「これからも、素敵なお花を届け続けてくださいね!」
女性がそう言い残して店を出て行った後、千代は心の中でそっと呟いた。
「もちろん。これからも、花が繋ぐ物語を紡ぎ続けていくわ。」
店内には優しい静けさが広がり、花たちがまたそっと風に揺れているように見えた。
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