第17話:想いを運ぶ花
翌朝、千代はいつものように店を開け、花たちを手入れしていた。昨日訪れた男性の姿が頭から離れない。花束を抱えて帰る彼の後ろ姿には、何か深いものを感じさせる静けさがあった。
そんなことを考えていると、また扉の鈴が鳴った。入ってきたのは、近所に住む若い女性だった。彼女は千代の店を時々訪れては、母親へのプレゼントを選んでいた。
「おはようございます。今日も素敵な花がたくさんですね。」
笑顔で話すその女性に、千代も微笑み返す。
「おはようございます。今日は何か特別なご用ですか?」
彼女は少し考え込むような表情を浮かべた後、言葉を選ぶように話し始めた。
「実は、友達が遠くに引っ越すことになったんです。お別れのプレゼントに花束を贈りたいんですけど、どんな花がいいでしょうか?」
千代は彼女の話を聞きながら、引っ越しや別れに相応しい花を考えた。
「そうですね、新しい環境での幸せを願うなら、ミモザやカスミソウがおすすめです。どちらも前向きな気持ちを象徴する花ですよ。」
「素敵ですね、それにします!」
千代は明るい黄色のミモザを中心に、白いカスミソウをあしらった花束を丁寧に仕上げた。そこにグリーンのアクセントを加えると、どこか軽やかで希望に満ちた仕上がりになった。
花束を受け取った女性は、感謝の言葉を残して店を後にした。その後ろ姿を見送りながら、千代はふと思う。
花は人の心を繋ぐ不思議な力を持っている。それが別れでも、感謝でも、未来への願いでも、花を通じて気持ちを伝えることができるのだと。
千代は今日もまた、自分の仕事の意義を胸に刻みながら、次の訪問者を迎える準備を整えていくのだった。
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