第15話:忘れられない景色
その日の夕方、千代はふと店先の花々を見つめた。風に揺れるガーベラやスイートピーたちが、ささやくように彼女に語りかけてくる気がした。花屋を営む日々の中で、光彦のような人々との出会いが、自分にとってどれだけの意味を持つのかを改めて感じていた。
閉店準備をしていると、再び扉の鈴が軽やかに鳴った。顔を上げると、そこに立っていたのは光彦だった。
「光彦さん、今日はまたどうしたの?」
「実は、少しだけ話したいことがあって…迷惑じゃなければ。」
彼の表情には、少し緊張した面持ちが浮かんでいたが、千代は微笑んで椅子を勧めた。光彦は小さく礼を言って座り、ゆっくりと話し始めた。
「僕、母さんに言えなかった気持ちを、花を通じて少しずつ伝えられるようになったんです。それだけじゃなくて、これからはもっと自分の気持ちを言葉にしていこうって決めました。」
その言葉には、強い決意が込められていた。千代は頷きながら、彼の成長を感じていた。
「それは素晴らしいことね。光彦さんがそうして一歩ずつ前に進むことで、きっと周りの人たちも笑顔になっていくわ。」
光彦は少し照れたように笑い、続けて言った。
「千代さんのおかげです。この花屋に来て、何かが変わり始めた気がして…。本当にありがとうございます。」
その言葉に、千代の胸がじんわりと温かくなった。花屋を営むことの意味、花が人々に与える力――そのすべてが、光彦の姿を通じて明確になる瞬間だった。
「こちらこそ、ありがとう。光彦さんのような人に出会えたことが、私の宝物よ。」
光彦は深く頭を下げた後、もう一度笑顔を見せて店を出た。その背中を見送りながら、千代は心の中でそっと祈った。彼の未来が、花のように明るく咲き続けることを願いながら。
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