第13話:家族の絆

光彦と母親が選んだ花は、黄色いカーネーションだった。希望や感謝を象徴するその花を手にした光彦は、どこか誇らしげな顔をしていた。


「母さん、この花、家に飾ろう。今度は僕が世話をするよ。」

光彦の言葉に、母親は驚いたように目を見開いたが、すぐに柔らかな笑みを浮かべた。

「そうね、一緒に育てていきましょう。」


千代は二人の会話を聞きながら、その場の空気が温かいもので満たされていくのを感じた。花が言葉以上のものを運び、家族の絆を深めているのだと実感する。


光彦と母親が花を大切に抱えて店を出た後、千代はふと考えた。この花屋を始めた頃、彼女自身もまた、家族との絆を花で繋いできたのだと。忙しい日々の中で忘れかけていた初心が、光彦たちを通じて再び胸の中で蘇ってきたのだ。


その日の夕方、千代は自分のためにも一輪の花を選ぶことにした。目に留まったのは、青い小さな忘れな草だった。


「これにしよう。」


千代はその花を包みながら、自分自身に言い聞かせるように呟いた。花は誰かの心を癒すだけでなく、自分の心をも穏やかにしてくれるのだと改めて感じた。


店を閉める時間、窓辺に飾られた忘れな草を見つめながら、千代は心の中でそっと祈る。光彦とその家族が、これからも花を通じて笑顔と絆を育んでいけるようにと。


そして、明日もまた新しい誰かが、この店で心を癒されるだろう。そのことが、千代にとって何よりの幸せだった。

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