第12話:心の花
光彦が再び店を訪れることは少なくなったが、千代は彼のことを思いながら日々を過ごしていた。花屋には、他の客が次々と訪れては花を選び、千代もそのたびに丁寧に接客をしていた。だが、光彦の姿を見かけるたびに、何か心の中で温かいものが広がっていくのを感じていた。
数週間後の午後、店に再び光彦が訪れた。今回は、驚くことに、彼の隣には母親の姿があった。
「こんにちは、お久しぶりです。」光彦は微笑みながら言った。
「ええ、お久しぶりね。」千代は少し驚きながらも、優しく応じた。
光彦の母親は少し照れくさそうにしていたが、明るい笑顔を浮かべていた。
「実は、息子が最近、私に花を贈ってくれたんです。そのおかげで、私も久しぶりに心が元気になったんです。」
光彦は照れくさそうに笑い、母親の手を軽く握った。
「僕も、母さんに言いたいことがあって。花を通じて、少しでも伝わるといいなって。」
千代は二人のやり取りを見守りながら、心が温かくなった。光彦は少しずつ、自分の気持ちを表現できるようになってきた。それは、花がその橋渡しをしてくれたからだろうか。
「今日は、また新しい花を選びに来ました。」光彦が言うと、母親はうれしそうにうなずいた。
「それでは、何かお手伝いしましょうか?」千代が尋ねると、光彦は嬉しそうに、母親と一緒に店内を歩き回りながら花を選び始めた。
その光景を見ていると、千代は花屋としてだけではなく、一人の人間としても、幸せを感じる瞬間が訪れたような気がした。
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