第11話:新たな気持ち
光彦が店を出てから数日が経った。彼が選んだ赤いガーベラを持ち帰った日の翌週、千代は少しだけ気になることがあった。それは、光彦があの日以来、しばらく花屋に来なかったことだ。いつものように足音が聞こえてこないことに、千代は無意識に寂しさを感じていた。
その日、店の扉が静かに開き、光彦が姿を現した。少しだけ驚いたが、千代はすぐに穏やかな笑顔を見せた。
「お久しぶりね。」
光彦は少し照れくさそうに頭をかきながら言った。
「すみません、少し忙しくて。でも、今日はどうしても来たくなったんです。」
彼の手には、今度は小さな鉢植えが握られていた。それは、白い小さな花が咲き誇っている花だった。
「これ、母のために買いました。少し、遅くなってしまったけれど。」
千代はその花をじっと見つめながら、静かに微笑んだ。
「きっと、お母さんは喜んでくれるわね。」
光彦は少しだけ照れた様子で頷いた。そして、しばらく無言でその花を眺めながら、口を開いた。
「母に、ずっと言えなかったことがあって。最近、やっと少しだけ、伝えられるような気がしています。」
その言葉に、千代は驚きと共に胸が温かくなるのを感じた。光彦が変わり始めているのを感じていたが、彼自身も内面で変化を受け入れ始めていたのだ。
「良かったわね、光彦さん。」
千代の言葉には、心からの祝福が込められていた。光彦は少し顔を赤くしながら、静かに店を後にした。
その後ろ姿を見送ると、千代は再び、花の力を信じる気持ちが強くなった。
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