第10話:変わりゆく日々

翌日、千代はいつものように店を開けたが、どこか心が軽く感じられた。光彦が母親への贈り物を手にしたあの日のことが、まだ心に温かく残っている。その後、花屋には新たな顔ぶれが訪れるようになった。


光彦の姿は見かけなかったが、彼の後ろ姿が千代の心に浮かんでは消えていた。あれから何日かが過ぎ、彼は何度か店を訪れていたが、その度に少しずつ変わっているように感じていた。花を選ぶ目も、言葉も、何かが少しずつ変わり始めている。


ある日の午後、店にまた光彦が訪れた。今回は、アジサイの花ではなく、色とりどりの花々を抱えていた。


「今日は、母のためにじゃなくて……自分のために花を選びに来ました。」


千代はその言葉に驚きつつも、穏やかに微笑んだ。

「それは、いいことね。花は自分を癒すためにも大切だから。」


光彦はその言葉を噛みしめるように聞き、少しずつ花を選び始めた。千代は黙ってその様子を見守る。


彼は最終的に、赤いガーベラを選んだ。鮮やかな色が光彦の顔にわずかな変化をもたらし、彼の目には確かな輝きが宿っている。


「これにします。」


千代はその花を慎重に包み、光彦に手渡す。


「ありがとう。」光彦の声には、かすかな明るさが含まれていた。


その後、光彦は店を出ていったが、今までの無口な青年とは少し違う、少しだけ自信を持った後ろ姿が見えた。

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