そこに何の違いもありゃしないだろう!

「ありがとうございます、国王陛下。

皆様も少しだけ私に時間を頂きたい」


父がそう言って会釈をすると、広間にいた全員がそれを了承するという意味での拍手を行った。


「社交界では有名だと思うのだが、私は少々親バカで通っていましてね。

娘にはなるべく幸せになって欲しいとつくづく思っているわけです」


父の言葉に何人かの貴族がうんうんと頷いているのは、同様の想いが子供に対してあるからだろう。


「ウラヌス王子であれば娘を幸せにしてもらえるかと思いましたが、残念ですがそれは叶わないようで。

王子からの婚約破棄は甘んじて受け入れましょう」


「あ、ああ、すまない」


「謝罪など必要ありません。

私の目に狂いがあっただけの事ですのでね」


父の皮肉混じりの言葉にウラヌス様は気まずそうに黙ってしまった。


笑顔ではいるものの、父の怒りは相当なものであろう……これは後で王家に吹っ掛けるつもりに違いない。


「長くなりましたが、私が言いたいことはただ一つであります。

聖女様の告白に対して、まだ娘は何もお返ししていないということです。

もしも娘が聖女様の告白を受け入れるというのであれば、我がルビエラ家は喜んで聖女様を迎え入れましょう。

ただ、娘が聖女様の気持ちに応えられないという結論に至った時は……どうか、潔く諦めて欲しいのです」


「それはもちろんです。

アンヌマリー様がどうしても私を嫁に貰うのが嫌だと拒否されるのであれば、私は潔く諦めましょう」


「聖女様、寛大なご判断をありがとうございます。

さぁ、アンヌマリーよ。

後はお前の返事次第だ」


「え、は、ええ……!?」


父の言葉で全員の視線が私に集まっているのが分かる。


そんなこと言われても私達は女同士だし、何よりこの場で私は断罪されて修道院に送られると考えていたから、生涯独身を貫くつもりでいたのだ。


私がアワアワと混乱していると、いまだにリリアーテに包まれたままだった両手に力が入る。


「アンヌマリー様を困らせてしまって申し訳ありません。

しかし、私の想いを成就する可能性があるのはここしか無かったのです。

……もし、私の想いが受け入れられてもらえなかったとしても恨みはしません。

その時はこの想いをそっと胸に秘め、修道院で過ごしていこうと思います」


そう言って瞳を潤ませて悲しそうな顔をしているリリアーテを見てハッと気付く。


今の彼女は私と同じ気持ちなのだと。


私の幸せのために自分を犠牲にして修道院へ行こうとしている……リリアーテの幸せを願って修道院に行こうと思っていた私と、そこに何の違いもありはしないだろう。


いま、リリアーテを幸せに、笑顔に出来るのは私だけなのだ。

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