第9話 獣人少女の目覚め



「お待ちしておりました。フィーア様。

この度、案内役を仰せつかった“精霊の森のウォルト”です。」



精霊の森に入ると、背の高いウォルトと名乗るエルフに出迎えられた。

エルフらしくイケメンである。

すらっとした体型をイメージしていたがめっちゃ筋肉モリモリで威圧感がすごい。



「ようこそおいでくださった人間のお客人。どうぞゆっくりして行ってください」



俺を見る目は鋭い。

それはそうか。エルフは人間に好意的ではない。フィーアに言われて仕方なくということだろう。



「すまないな、キリヤ。妾達は外部との接触を極力避けている故、どうしても他種族との関わり方がわかっておらぬのだ」



「大丈夫だよ、気にすんな」



来客用の部屋のベッドに獣人の少女を寝かせて、再度部屋を出る。

俺とフィーアはウォルトに連れられ、里を案内される。

住人であるエルフは遠目に様子を伺ってくるが、話しかけてくる者はいない。


案内といっても居住区をぐるっと一周するだけの簡素なものだった。

商人などはおらず、食べ物は当番制で借りを行い狩りを行い、動物や木の実を採取しているとのことだった。



「それで、作物が荒らされているってことだったけど、どこが荒らされてるんだ?」



「……ここだ」



そう言ってウォルトは立ち止まる。

ここは精霊の森の入り口。精霊の森の反対側。目の前に広がるのは雄大な自然。



「まさか……」



「この森すべてだ」



なんということだ。精霊の森以外の外の森。

その全てが範囲だという。

どうやら骨が折れそうだということは理解できた。



⭐︎⭐︎⭐︎



来客用の部屋。

獣人の少女は静かに寝息を立てている。

ウォルトと別れ、俺とフィーアはテーブルを挟み向かい合っていた。



「まさか森全体とは妾も驚いた。範囲が広すぎるぞ」



ウォルトから聞いた話しによると、精霊の森を出てすぐの場所に作物を作る畑があったそうだ。

複数の見張りを立てて管理していたものの、ある一匹の魔獣に襲われ、畑は全滅。狩りに出たエルフもその魔獣に襲われ怪我人が多数。

このままでは狩りに出る回数が減り、冬までに必要な食糧を揃えることができないということだった。



「この森はどこの森なんだ?里を覆うくらいだ。相当な広さだとは思うが」



「ここは帝国領の西部に位置する“霊獣の森”じゃ」



「霊獣の森っ!?推定ランクAの一流冒険者でも足踏みする未踏領域じゃないか……」



霊獣の森はとにかく魔物や魔獣の力が強いのも勿論だが、なんといっても攻略を困難にしているのはその範囲にある。

帝国領の四分の一を占めるこの森は、帝国にとっても開拓を進めたい場所ではあるものの未だ手を出せない。禁断の森である。



「元々が過酷な環境ではあるが、一匹の魔獣にやられてしまうものなのか?これまで魔獣討伐をしてこなかったわけじゃないだろ?」



元が危険な場所だ。

魔獣の被害などこれまでもあっただろう。それが、今回は一匹の魔獣に遅れをとるとは考えづらかった。



「うむ、お主の疑問は最もだ。どうやら、あやつらは妾達に隠していることがありそうだの」



俺とフィーアが話し合っていると背後でもぞっと動く気配がした。



「あ……れ……?」



獣人の少女が目を覚ましたので、一度話しを切り上げて様子を見る。



「おはようさん。他に悪いところはないか?」



「妾は茶をいれてやろう。少し待っているが良い」



「……」



フィーアはお茶を淹れるのに席を断ち、一度部屋を出る。部屋は俺と獣人の少女二人だけになった。


髪と同じブラウンの耳は毛先だけ白く、今はピンと立っている。

アーモンド型の金色の瞳が特徴的な可愛いタイプの整った顔立ちだ。



「体は起こせるか?無理そうだったらそのままで–––––」



声をかける途中でピッと頬に痛み。僅かに血が流れる。



「どういうつもりだ?避けなかったら思いっきり首が落ちてたぞ」



早い。

怪我をしているのに尋常ではない攻撃速度。

毛が逆立ち、「フシュー」と息を吐き、こちらを明らかに警戒している。



「人間……お前は何者だ?!……ここはどこだ!?何をするつもりだ!?」



牙を剥き出しにする獣人の少女。

さて、どうしたとのかと困っていると部屋のドアが開いた。



「どうした?……セクハラでもしたのか?」



俺にジト目を向けてくる。エルフっ娘。

それはないよフィーアたん。

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引退勇者は結婚したい! アライグマ @tuguhi1204

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