第8話 猫人族と大樹の里


盗賊を一蹴した俺達は最後にリュカ村を見回っている。

住人の生き残りや捕えられた人間がいないか確認するためだ。



「居ないな」



「うむ、盗賊のリーダーも最近全て売り捌いたと言っておったかの」



村の一番奥の小さな小屋。

ハリケーンの対象になっておらず不自然にそこだけ綺麗に残っていた。



「もしや……!」



フィーアは小屋へ駆け出して、中に入る。



「キリヤ……!生き残りがおる!」



続けて中に入ると、獣人の少女が横たわっていた。人間で言うと恐らく15、16才くらいだろうか。軽装鎧を着たままで捕えられているということは、まだ捕まって日が浅いのだろう。



回復薬ポーションだ。飲ませてあげてくれ」



フィーアは俺に手渡された回復薬ポーションをゆっくり獣人の少女の口へと流し込む。

体についた傷は瞬く間に消えていく。



「うむ、傷はこれで大丈夫じゃ。呼吸も安定しておる」



恐らく捕まる際に抵抗したのだろう。弱っているが休めば回復するだろう。



「この娘は獣人の何族なんだ?」



獣人は種類がとても多い。この娘の場合はブラウンの毛色に耳の先だけが白い。



「一般的な猫人族じゃよ。素早いが戦闘力は高くないから人間に愛玩用として捕えられることが多い」



「なるほどな。……フィーアいいか?」



「わかっておる。治療行為までしたのだ。獣人族とは悪い関係ではないしの。保護することにしよう」



俺が猫人族の少女を背負うと早々にリュカ村跡を出発する。


フィーアが先導し、後に続く。

森の中に入ると、獣道をかき分け奥へと進んでいく。



「大丈夫なのか?なんかすごいとこ進んでるが……」



「まあまあ、妾に任せよ」



そう言うフィーアに着いていくこと数分。茂みの中に小さな石碑を見つけた。



「【森の同胞よ、道を開けよ】」



フィーアの精霊の行使と共に地面がずれて地下へと続く階段が出現する。

正方形の小さなスペースに魔法陣が敷いてある。



「すげーロマンある仕組みだな!」



「一応、忠告すると、これはエルフしか使えぬが、精霊の森へと繋がる転移魔法陣じゃ。

万が一口外しようものなら、エルフのアサシンが各地から押し寄せるから気をつけるのじゃな」



「マジかよ。超こわい」



エルフのアサシンは有名だ。

精霊術を使うため手口がバレにくく、犯人が特定されにくい上に相対しても強いので敵には回したくない存在だ。



「安心してくれ。口外するつもりはないよ」



「短い時間ではあるが妾もお主を信用しておる。心配はしておらんよ」



フィーアはそう言って笑うと転移魔法陣を起動させる。

精霊術特有のマナの光粒が空間を満たした瞬間目の前が光に覆われる。



「着いたぞ」



先程と変わらない正方形の小さな部屋。

そこからフィーアに連れられ外に出ると、また森にでたが地形が明らかに変わっていた。



「空気が澄んでいる……?」



「やはり大量にマナを持っているだけはある。それにちゃんと気付けるのは、お主のマナが精霊の森の空気に触れて喜んでおるからじゃ」



よくわからないが、フィーアがそういうのだからそうなのだろう。


木のアーチを抜けると大樹がいくつも重なる住宅と、その中心には枝葉が光る大樹がまるで守り神のように鎮座していた。



「ようこそキリヤ。ここがエルフの隠れ里“精霊の森”じゃ」



「……綺麗だ」



壮観だった。

こちらに来て自然が多いと感じることは多々あったが、ここまでの美しさを感じたことはない。



「言うとくが“世界樹の森”はもーっと凄いぞ!」



得意気に笑うフィーアに連れられて俺は精霊の森へと入るのであった。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る