第7話 リュカ村
リュカ村の前には門番がいた。
柔和な笑顔を向けてくる、一見好青年だ。
「今度は、妾がやろう」
門番に聞こえないように俺にそう伝えると、静かに詠唱を始める。
「【眠れ】」
たった一言で門番は眠りに落ちた。
「凄いな、それが精霊術ってやつ?」
「ふふんっそうじゃ。精霊にお願いすることで望んだ効果をもたらすことができる。
最も複雑な願いは望んだ通りにならぬこともあるが、こういう単純な願いであればさくっと叶えてくれるのじゃ」
得意気に胸をはるフィーアを横目に門番を確認すると深い眠りについているようで起きる気配はない。
村に入ると、家屋の木窓は全て閉められていて完全に警戒心剥き出しの状態だ。
わかりやすいことこの上ない。
「ここまで来ると関心しちまうな」
「そうじゃのう。……どうやら歓迎してくれるようじゃぞ」
家屋や家屋の間、屋根の上に人の気配。
「ここは妾に任せてもらおう」
「わかった。任せるよ」
そう伝えると彼女の体の周りに光の粒が浮かび上がる。
マナの粒子。
魔力とマナは別物だ。
魔力は体内に宿る力で、マナは体外に纏うように漂う力だ。
精霊術は願いを口にし、お礼としてマナを与えることで術の行使が叶う。
「【風よ逆巻け。妾の元に罪人を届けよ】」
フィーアの目からおよそ人間味というものが消え、神聖さを感じさせる。
そして、どこからともなく風が吹き荒れる。
「これは、凄まじいな……」
風が渦を巻く。
日本に住んでいた頃、海外のニュースを見ていたときに動画投稿サイトで見たことのある光景。
ハリケーン。
自然が起こす脅威的な自然災害。
人は、自然の前に無力でしかない。抗うことも逃げることも許されない。
あらゆる家屋は空気中でバラバラに解体され、人間は糸の切れた人形のようになす術もなく巻き込まれていく。
「まあ見ておれ」
リュカ村は小さいので、あっという間に風は村を蹂躙した。
だがそこで驚くことが起きた。
家屋を用いられていた木材だけがまとめられて地に落ち、次に意識を失った盗賊達が積み上げられた。
「まさか発動中の術をコントロールできるのか?」
「そういうことじゃ。これはハイエルフの特権とも言えるものじゃな。妾にとって精霊は子供の頃から共に朝日を迎え、共に眠った親友じゃ。
最初に簡単なお願いを聞いてもらって、マナを与えながらそのマナに願いを込めることで精霊は更に力を貸してくれるのじゃ。
そして妾は、妾達に悪意を向ける人間を集めてもらった。もちろん抵抗できぬようある程度痛めつけさせてはもらったがの」
俺は正直、精霊術も魔法も大して違いはないと思っていたが、これは明確な違いだ。
魔法に思考性を持たせることはできない。
強弱も範囲も後出しジャンケンできるなんて便利すぎる。
俺は精霊術は適正がないから使えないんだよなあ、羨ましい。
「さて……ここからはお主に任せても良いか?」
フィーアはさっきのことを気にしているのだろう。共感はしてくれたからといって行動がすぐできるわけではない。当たり前のことだ。
「ああ、任せてくれ。最も今回は違う答えも見せようと思う」
「え?」
俺は一人一人魔法で拘束する。
「殺さないのかの?」
「もしかしたら変わる結果もあるかもしれないからね」
縛り終わる。合計35名。
「ちなみに、元の村の住人が混ざってることはないのか?」
「それはないのじゃ。感情に敏感じゃからな。悪意の持たぬ住人ならばこの風に巻き込まれることはない」
「そっか。なら安心だ」
俺は詠唱を始める。
「渡り、繋ぐ、時の神、月の道標に従って、その在処へと姿を移せ–––––【
光と共に盗賊35名は瞬時に姿を消した。
「なっ……!?なっ……!?空間転移!?そんなものまで!?」
信じられない半分興奮半分といった様子のフィーアははしゃいでいる。
「ははっ……ちょっと魔力使いすぎちゃったけど」
体が怠い。規模の大きい魔法を連発したので、そのリバウンドがきていた。
「ん……?でもどこに転移させたのだ?」
「王城の地下牢」
あの
ちょっと清々したわ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます