第6話 フィーアが尊い
盗賊のリーダーは、素直に喋った。
どうやらリュカ村は盗賊の本隊が完全に乗っ取っているらしい。
ちなみに御者もグルだ。
盗賊の馬に速度を合わせていたからそうだろうとは思っていた。普通は逃げる為に速度を上げるはずだ。
だから魔法を放つ時にも容赦はしなかった。
身なりのいい者や女子供がいれば、散々弄んだ後に奴隷として売るらしい。
ありきたりな話しだ。
「……なんと、酷い話じゃ」
「フィーア、こいつらはそれが日常なんだよ。“酷いこと”なんてカケラも思っちゃいないよ」
盗賊の話しを聞いて落ち込むフィーアは悲しげに俯く。
「それでこの盗賊はどうするのじゃ?」
その言葉に土下座スタイルの盗賊の体はびくっと震える。
「素直に話してくれたことだし、一瞬で終わらせるよ」
「まさか!待てキリヤ!!」
スパッ–––––。
剣を抜き放ち盗賊の首を落とすと首が、地面に転がる。
「なぜ、なぜ殺したのじゃ!?奴は全て話した!抵抗もしない者を殺すなど……っ!」
「もう戻れないんだよ。生きる術を殺しに頼った時点でもう人には戻れない。
フィーア、エルフは人間をよく汚いと表現するけど間違いじゃないんだ。
この場で見逃したとしてもこいつらは繰り返す。繰り返して、こいつが生き延びた先で更に人が死ぬ。
もしかしたら、更生するやつもいるかもしれないけど、それを信じられるほど俺達はこいつを知らない。だから殺すんだ」
「そんな……」
嫌われてしまっただろうか。
エルフは様々な理由で潔癖だ。ある意味日本に近い感覚を持っているのはエルフといえる。
一夫多妻でも一妻多夫でもないし、死生観も酷似している。
この世界に召喚された直後ならもっと仲良くなれたかも、なんて思うがそうもなれないかもしれない。
その前にフィーアは人の持つ悪意のカケラに殺されてしまうだろうから。
その後は、無言のままリュカ村へと徒歩で向かい村の入り口の近くまで来たところでフィーアは足を止める。
「キリヤ……すまない!!
お主を否定するわけではないのじゃ。世界を巡ったお主がそう思うということはそうなのじゃろう。
妾は物を知らぬ。世間を知らぬ。世界を知らぬ。閉鎖された場所で周りの環境のみを見て生きてきた。
言い訳にしか聞こえないとは思うが、謝罪を受け取ってほしい。すまなかった」
そう言って頭を下げるフィーア。
エルフの第一王女に頭を下げさせるとか何事。
「い、いや謝らなくていいんだ。俺の考えが絶対じゃないんだから。ただ、俺は大事なものとそうじゃないものを分けてるだけだから」
「大事……?」
「うん、フィーアのこと」
「……えっぇえええええ!?き、急に……困る……っ」
あれ?なんか俯いてしまった。
もしかして照れてる?
顔を覗きこもうとするとプイッと顔背けて顔を合わせてくれない。
「尊いかよ……」
俺は天を仰ぐ。
あー、フィーアと結婚したい。
いや、できないんだけどね。
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