第4話 旅路


馬車で小さな村々を経由すること一週間が経過していた。

フィーアとの旅は楽しい。

いや、そもそも女の子との旅がこんなに楽しいなんて俺は知らなかった。


今は途中の村で降りて、物資の補給をするため、小さな商店で買い物中である。



「ほれ、肉まんじゃ」



「ありがと、フィーアたん」



熱々の肉まんを二つに割って片方を渡してくるフィーアたん。

やはり、13回も勇者を召喚していると文化も日本寄りで食べ物の食文化の違いで打ちのめされることは少なかった。


つるぺたエルフっ娘はほふほふっと白い息を吐きながら美味しそうに肉まんを頬張る。

可愛い。ほっぺたピンク。



「ずっと気になってはいたのじゃが“たん”とはなんなのじゃ?」



「俺の故郷では愛称というかあだ名というか親愛の意味を込めてそう呼んだりするんだ」



「そうか、愛称か。悪くないのぅ」



そう言って残りの肉まんを口に放るフィーアたん。

なんでも、種族に関わらず、身分を明かすとみんな敬ってくるため、およそ人間関係というものの構築は難しいらしい。そのため、友人もおらず一番仲が良いのが専属侍女のみだったという。



「大丈夫だよ、俺貴族じゃないけど友人いないぜ?」



「それは、むしろ大丈夫なのか?」



そう言って笑うフィーアたん。

最近は、笑顔も砕けてずいぶん子供っぽく笑うことも増えた。

守りたい、この笑顔。



「キリヤは故郷に帰りたいと思わないのか?」



不意に、フィーアはそんなことを質問してきた。



「思わないかな。むしろこっちにこれて良かったと思ってるくらい。俺はあっちじゃ空気みたいな人間だったし」



「そうなのか?お主ほどの人間が空気とは俄かには信じられん」



まあ、普通に暮らしてて友達もいたけれど、何者でもなかった。

こっちにきて勇者になり俺は特別になれた。

今でも俺は自分が特別かと自分に問うと、冒険をしていた五年間は特別だったというだけで、今はただの冒険者かニートでしかないと思っている。



「あっちは魔法も魔族も魔物もいなかったし、退屈だったからね。こっちの方が刺激的だよ」



なるほど、とフィーアは一つ頷くと、そろそろ馬車が出るタイミングになったので二人で乗合馬車へと向かう。


俺達はこの一週間色んな話をした。エルフについても知れたし、お互いのことも話したおかげで心理的な距離はだいぶ無くなったと思う。



「ほら、フィーア。手貸して」



「う、うむっ」



手を掴み荷台に引っ張り上げるとフィーアが躓いて転びそうになるのを抱き止める。



「きゃっ」



「フィーア大丈夫?」



「……うむ」



耳が赤い。声がうわずってそっぽを向いている。

そう、このエルフっ娘実は男性への免疫が0なのだ。

気張っていれば余裕なのに、気を抜いていたり不意打ちをくらうとこんなふうに照れっ照れなのである。

超可愛いです。今日もありがとうございます。



「男慣れしてないのに、よくなんでも叶えるとか言えたね」



「うっうるさいわい」



へへへっ美少女エルフっ娘かわゆす。

頭を撫でてやると「やめんかっ」というが、耳は赤いままで一度振り払っても撫で続けると何も抵抗はせずに今度は何の抵抗もせずに撫でられ続ける。



「お主は頭を撫でるのが好きなのか?」



「フィーアの髪がさらさらで凄い気持ちいいんだよ」



「母上様からもらったものじゃからな!妾の自慢じゃ」



フィーアはそう言って馬車の行方に視線を動かす。



「次のリュカ村についたらそこからは徒歩じゃ。いよいよ近いぞ」



「え?精霊の森って人里の近くにあるのか?」



「まだ内緒じゃ。きっと驚く」



そう言って得意気に笑うフィーアはどう見ても年頃の女の子にしか見えなかった。


ぜひ、結婚したい。できないけど。

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