モノトーンの部屋に太陽
そんなわけで今、僕はワンルームの広い部屋でモノトーンの冷えた空気の中で一人無力感からくる虚脱と喪失感に総身を支配されている。あの夕暮れからずっと。
どうやっていつ帰ったかもわからない部屋の中に一人。ずっと。
そこは昨日狭くなってもないのに今日は広くなってしまっている。やけに。
音も、色も、何もないだだっ広い部屋は耳目に痛く、ぼんやりとした目に映るカーテンの向こうは気づけば明るかった。知らぬ間に外は夜すらもが明けていたらしい。
こっちの時間は進みようなんてなく朝も朝日も来ないというのに、全く残酷なものだ。
玄関を誰かが、遠慮がちにコンコンと軽くノックする音がする。
出るどころかそれに答える気力も何も今の僕には沸かない。その後もノックは優しいリズムで扉を叩く。
少ししてそれが止んだ後
「あの。いないんですか?」
恋しい声に僕の耳は驚き、身体は文字通りに飛び上がる。足がもつれそうになりながらドアに駆け寄り
ノブに手をかけて開ける。
戸口の向こう朝の眩い光の中に
彼女がいた。
昨日いってしまった彼女がいた。
そこに。
確かめる様に彼女の顔に伸ばす僕の左手。
それを握ってきた彼女の両の手には温もりがあった。確かに。
見える。
触れる。
温もりがある。
彼女のちいさな手
「あんなこと言ったのに……あの、その…帰って来ちゃいました。」と彼女ははにかみげに僕に言って、
僕は彼女に無意識の本音でお帰りと返す。
彼女は太陽の様な鮮烈で温かい満面の笑みを僕に見せる。
ならば、僕はどんな表情を今彼女に見せているのだろう。
自分の顔は見えないけれど、きっと泣きながら彼女みたいな太陽の笑顔をしているに違いない。
冥婚のアクアノート 作久 @sakuhisa
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