第9話 過去2

俺はカナリを組織に預け、何時間もユイリを探した。何度も何度も名前を呼んだ。当然返事が帰ってくることもなく、遺体が見つかることもない。その後、組織に戻ってからも俺は立ち直れず、気が気ではなかった。ユイリが死んでからというもの何をするにもやる気がなく憂鬱な日々を送っていたある日、俺のもとに一人の来客が現れる。それはユイリを殺した張本人であり理念派の頭、クラリだった。

「何しに来た!クラリ!!」

クラリを見た瞬間、俺は激情にかられ襲い掛かろうとしたがクラリは手に持っていたペンダントを突き出した。それはよく見覚えのあるものである。それもそのはずで、生前ユイリが肌身離さず持っていた両親の形見だったのだから。

「それをどこで見つけたんだ。あそこにもうユイリは…」

「ユイリちゃんはね、僕が回収させてもらったよ。君のその黒の呪いの前任者だったんだ。そんなこの体を調べないわけにはいかないからね。」

「本当に何しに来たんだ…貴様はァ!」

俺は自我を保つのに必死だった。ここにはほかの仲間たちがいる。そんなところで呪いを暴走させ、仲間を傷つけるわけにはいかなかった。

「ちょっとした交渉をと思ってね。彼女の遺体を返す代わりに仁君の体を調べさせてほしい。」

俺は聞く耳を持たなかった。こいつはユイリを殺しておいてまだ交渉できると思っているのか。我慢の限界を超え、俺は黒の呪いを自由にさせた。そこからの記憶はない。再び目を覚ましたころには組織の施設であったであろうものの残骸が辺り一帯に散らばっていた。だがそれだけではすまない。きっと暴走した俺を止めようとしてくれた仲間だったものが首だけになって転がっていた。絶望し、膝から崩れ落ちたがそのままでいるわけにはいかない。俺がこの呪いを持っている限りいや、人間が黒の呪いというものを持っている限りこんな悲劇は繰り返されるのだろうと思い、俺は呪いを封印することに決めた。その日のうちに別の施設で治療を受け、順調に回復して言っているカナリに会いに行く。

「カナリ、俺は黒の呪いを封じ込めることに決めた。君には俺の弟子としてそれを見届けるために、一緒に来てほしい。…だめかな?」

「…わかりました。」

カナリはどこか不満げに了承してくれた。それも当たり前なのかもしれない。自分をこんな風にした張本人が目の前に立っているのだから。二日後、俺たちはある山奥に来ていた。誰も来ない、誰にも知られていないユイリの故郷。そこで自分の血と魔力を注いで作った傀儡にこの呪いを封じ込める。その準備をし、儀式を始めた。傀儡に呪いを渡すというのは俺自身初めての経験だったがやるしかなかった。始まった瞬間、俺の魔力がぐんぐん吸われ始める。痛みはなかったが自分自身の何かが失われていくのを感じる。終わったころには魔力は三分の一以下になったが、どこか穏やかな気持ちになっていた。

「俺は組織をこのまま抜けるよ。どうせこんな力じゃ足手まといになるだけだからね。カナリはこれからどうするんだい?」

「俺は…組織に戻ります。仁さんこそ組織を抜けてどうする気ですか!」

特に決めていなかった。だがもう何もわからない。

「どうするもこうするもないさ。適当にそこら辺をうろつくよ。」

「そうですか…それでは。」

カナリはきっと失望しただろう。それが分かっていても俺は何をする気も起きなかった。そこでカナリとは別れた。それから三年後、俺はどこかもわからないところもふらついていた。幸い組織にいたころのにユイリに言われ貯めていた貯金は莫大な額で尽きることはない。そのお金を使うたびに、ユイリに感謝をすると同時にむなしい気持ちになる。そんな毎日だったがある日覚えのある感覚を感じた。それは黒の呪いの感覚であるがそんなはずがない。呪いはあの日封印したはずだ。あの場所を知っているのは…まさかとは思ったがそれを確信することはできない。だが誰かが黒の呪いの封印を解き、受け継いだと考えると放っておくことはできない。今の俺の力では呪いに太刀打ちすることはできないためタリヤ・ベリンという魔法使いを雇うことにした。もし黒の呪いを受け継いだ人間がいるのだとすれば命がけになるのは間違いないので彼女は貯金の半分を使い、生涯命を預からせてもらうことにした。その日から毎日黒の呪いの痕跡を追い続け、やっとのことで接触することに成功する。黒の呪いを受け継いだものの正体は予想が的中してしまう。その正体とはカナリであった。昔の俺なら怒りと疑問で我を失っていたが、今の俺は疑問はあったが怒りはない。この時黒の呪いを封印する際に失った何かが怒りという感情であったことに気付いた。気づいたところでどうしようもないので俺は目の前のことに集中する。

「カナリ…どうして封印を解いたんだい?」

「仁さん、あなたにいう必要はないです。ところで隣の方は新しい恋人ですか?

ユイリさんのことはもういいんですね。」

「彼女は仕事仲間さ。」

やはり俺は怒りを失ってしまった。改めて実感したが、やることは変わらない。きっとカナリは黒の呪いにはまだ慣れてないだろうと思いある作戦にでた。

「カナリ、君は本当に出来が悪い弟子だったよ…それにこんなことまでするなんてね。君を弟子に取ったことは人生最大の汚点だよ。」

「何だとこのごみ野郎!ぶっ殺して…がはっ!ぎゃああぁぁぁ!」

その作戦は成功し、プライドが高いカナリは逆上して我を失い黒の呪いを暴走させようとしたが、体がそれについていけず暴走することはなくカナリは意識を失った。俺はそのままカナリを捕まえ、組織の仲間であったアマツの家の前に書置きとともにカナリを置いていった。

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呪いの中に光あり。 @teruo9492

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