第8話 過去

黒の呪いを受け継いでから四年経った。俺は呪いをある程度まで使いこなせるようになり、ユイリも組織に馴染むことができている。特に俺より五年先輩のアマツという人と仲良くなったらしい。かくいう俺も順調に成長していき弟子をとることになった。その弟子というのは、俺のいとこであり今年組織に入ってきたカナリである。カナリは組織に馴染めず素行は悪いが魔法の素質はずば抜けていて、弟子にしてから半年で中級の任務は一人で任されるようになっていた。そんな順調に行っていたある時、俺は組織のモットーに疑念を抱いた。それは一を殺して百をとるだ。俺はこの理念に基づき命乞いをする人間も、人質に取られている人間も何度も殺した。この理念を疑問に思う魔法使いも組織の中には存在する。俺は組織の内部に穏便派なる一を殺して百をとるという理念に反対する派閥を作りカナリやアマツにも入ってもらった。それに対抗するように、理念に基づき行動する理念派も作られる。理念派との対立は激しくなっていき遂には内部抗争までに発展するようになった。理念派と対立するようになってからというもの俺のところに任務が入ってくることはぱたりとなくなった。そんな反対活動に勤しんでいたある日、いきなり任務が舞い込んできた。久しぶりの任務だと思い、俺は張り切ってユイリとともに出発する。事件が起きたのはその日のことだった。


「ユイリ!久しぶりの任務だ!早く出発しよう!」


「よかったわね。でもいいの?もし任務中に人質なんて取られでもして、殺すことになってしまったら理念派がこれ見よがしにそのことをつついてくるんじゃないかしら?」


「いや、そうなればむしろチャンスだ!人質を助け出し、理念派の奴らにぎゃふんといわせてみせるさ!」


俺は興奮気味にそういい、ユイリとともに任務に出発した。


到着したところは何もない荒野のようだったがそこには一人の人影が見える。それは理念派のリーダーであるラン・クラリだった。この瞬間俺は理念派の奴らにはめられたことに気付いた。


「クラリ…!俺らをはめたのか!?」


「そういえばそうなるね、仁君。まぁ穏便派のまとめ役である君にはそろそろ消えてもらおうと思ってね。」


「ふんっ!黒の呪いを持ってる俺をどう殺すっていうんだよ。それはいくらお前でもわかっているはずだ!」


「うん、だからね君の弱点を狙おうと思って。」


そういうとクラリは腰に掛けていた剣で俺に襲い掛かってきた。


「弱点…?まさか!」


「そうそのまさかさ!やれ!」


クラリの合図とともに隠れていた理念派の奴らがユイリを取り押さえる。


「ユイリ!」


俺はすぐにユイリのもとに向かおうとしたが、クラリを振りほどこうにもなかなかうまくいかない。


「ユイリを!どうする気だ!」


「どうもこうもないさ、単なる人質さ。君たちは血の契約を結んでいるんだったよね。片方が十キロ離れれば両方が死に、片方が死ねばもう片方が死ぬ。だけど君は黒の呪いを持ってるからね。多分、その


誓いを破ったとしても死ぬことはないだろう。だから…あいつもつれてこい。」


そう言って連れてこられたのは、カナリだった。


「ここはどこなんだよ…誰かいるのか!?」


「カナリ!」


「仁さん!?助けて下さい!」


俺はすぐにでも助けに行きたがったが、ユイリを人質に取られ動くことができなかった。


「さあ、仁君。彼に黒の呪いを受け継がせるんだ。確か血縁者であれば可能だよね。もし素直にゆうことを聞くのであればユイリちゃんは無事に解放してあげよう。」


「そんなことはできない!お前はこれがどんなに危険なものかわかっていないんだ!」


「じゃあしょうがないね。おい!やれ!」


ユイリの首に剣が振り下ろされようとした瞬間俺は叫んだ。


「やめてくれ!わかった、わかったから。ユイリを離してやってくれ…」


「そうそう、それでいいんだよ。」


俺はカナリのもとに行き、呪いの継承の準備をし始めた。準備も終盤に差し掛かったころ、ユイリは何か言いたげにこちらを見ていた。


「どうしたのかな?ユイリちゃん?でもこれで会うのも最後になることだし少しだけなら喋ってもいいよ。」


クラリの合図でユイリにつけられていた口枷が外される。喋れるようになったユイリが言った言葉は、俺にとって聞きたくもない言葉だった。


「仁!私を殺しなさい!その呪いをそんな風に受け継がせるなんて駄目よ。これが最後のお願い…!お願いよ…仁…」


「このアマぁ!いいのかな仁君。このままだと愛しのユイリちゃんは死んでしまうよ!」


ユイリが俺に頼み事をしてきたのはこれが初めてだった。そしてそのお願いは代々黒の呪いを受け継ぎ、守ってきた末裔としての頼みでもあるだろう。そんなユイリのお願いを無視することはできなかった。


「俺は…ない。」


「何だって?もっとはっきり言ってよ。」


「俺は呪いを手放さない!」


「正気か?まあいい、そいつを殺せ!」


次の瞬間、ユイリの首は跳ねられた。それと同時に体中に激痛が走る。きっとこれは血の契約を破ったの代償だろう。だがそんなことはどうでもいい。俺は怒りで自分を抑えることはできなかった。呪いが暴走し、自らの限界を超えた呪いの力が使用される。それに伴う痛みに耐えきれず俺は気絶してしまった。意識が戻り、目を開けるとそこには、周りは火の海でカナリが立っていた。全身ボロボロで出血もしている。


「カナリ!すまない…俺が…俺が…もっとちゃんとしていれば…」


「気にしないでください仁さん。あなたのおかげで助かったんですから。でも…少し眠いかも…」


そういうとカナリは目を閉じてしまった。


「カナリ?カナリ!しっかりしてくれ!おい!!カナリ!!!」


喋りかけても返事がない。


「俺は…自分の弟子すら守ってやれないのか…」


カナリを静かに地面に横たわらせ、周りを見渡してみる。そこにはさっきまでユイリやカナリを取り抑えていた理念派の奴らの死体はあったがその中にクラリの死体はない。せめてユイリを埋めてやろうと思い、探したがユイリはどこにも見当たらなかった…

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