空虚

Cyan

遥かなる宙に手を。

 今宵こよいは星が降るらしい。


 朝、ぱさついたパンにかじりつきながら耳を通過した気象アナウンサーの言葉を今になって反芻はんすうする。

 星に願いを、なんて言ってみても良いかもしれない。家賃三万、1Kアパートのベランダからという悪条件のもとでは、御利益は半減しそうだが。

 ガリッ。キィ。

 建て付けの悪いサッシは背に妙な感覚を伝わせてきた。例えば、黒板を引っ掻いたときのような。

 暖房に肌が甘やかされていたからか、はたまたまだあの不快感が残っているのか、身震いをしながら顔をあげれば、雲一つない濃紺が両壁と手すりにフレームされていた。

 冬はなんだか空を遠く感じる。そもそも近い存在ではないのだが、いくら手を伸ばしてもあの紺一色をかき混ぜることは出来ないのだと思い知らされるのだ。この狭いベランダからは、尚更。


 あ、流れた。


 透き通った空にひとすじの光。その軌跡きせきは願いをかける間もなく消えた。

 気付いた時にはもう、空はただのつまらないに逆戻り。

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空虚 Cyan @pulupulu_108

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