第6話 いきなりの再会
「数日」とか言っておきながら、社員証(正確には、バイト証)は翌日に届いた。
(玲さん、張り切りすぎだって……)
早速開封した。学生証と大差ないデザインながら、青いラインのアクセントがカッコイイ。
(似てるし、学生証と間違えないようにしないと……)
社員証と一緒に入っていた紙には、「不測の事態に備えて、常に携帯しておくこと」と書かれている……わたしは少し悩んだ末に、財布にしまうことにした。
あ、わたしがCROSSになったことについては両親の方から話しかけてくれた。やっぱり玲さんが連絡を入れてくれたらしい。
こういうのって自分から言いづらいものだ。玲さんはよくわかってる。
……反対はされなかった。いつでも辞めることができるのはもちろんのこと、今までのCROSSのメンバーには殉職どころか、軽傷を負った事例すらも両手で数えられるくらいしかないのも大きかったようだ。まぁ、玲さんや絵那ちゃんの圧倒的な戦いぶりを見たら納得である。あれほど力の差があったら、わざと負けようとする方が難しいだろう。でも、本当にわたしもあそこまで出来るのかな……?
水曜日。
絵那ちゃんはあの日以来、学校に来ていない。……きっとどこかで任務についているのだろう。そうに違いない。たぶん。
「みゅう、気にしないでよ。えなちゃんと仲良くなくなっても、敵になったわけじゃないからさ……」
CROSSになったらどうなるのか、絵那ちゃんはどうしているのか。何もわからないのは、どうしても不安を生む。つぐみのなんか変な励ましも、今はありがたい。
でも、そんな時間はもう長くない。本日早くも、わたしのCROSSとしての最初のイベントがあるのだ……
わたしのCROSSとしての最初のイベントは、変身に慣れるために本部内でお試しの変身をすることだ。玲さんは「いつ来てもいいよっ」と言ってくれたけど……なるはやでやりたい。帰宅部のわたしは、放課後にあらゆる声(主に約一名によるもの)を無視して、CROSS本部に向かっていた。
社員証を鞄から予め取り出して、名家連合ビルに入るわたし。
(うぅ、やっぱり恥ずかしい……)
今はクールビズ中だから堅苦しさはそこまでないとはいえ、スーツだらけの建物に、わたしだけ学校の制服……あっちにスーツ、こっちにスーツ、ちっちゃなジャージ、そっちもスーツ……
「「……え?」」
驚きのあまり、つい声をあげてしまった。
遠くからでも目立つ、川添高校の色鮮やかなジャージ。絵那ちゃんだ。
(……ま、まあ関係者なんだしここに居ても不思議ではないけど。)
まさかこんなところで再開するとは思ってなかった。
向こうもわたしに気づいたようだ。ただでさえつぶらな瞳である目をさらに見開いて、困惑したような表情を浮かべている。
「……な、なんで???みゅう???なんでえ???」
予想外の元・友人の訪問を前に、小動物のように震えだす絵那ちゃん。テンパりのあまり声が裏返っている。何もそこまで驚かなくても……
(そうか。絵那ちゃんはまだわたしがCROSSに入ったって知らないのか……)
不審に思うのも仕方ない。誤解は解いてあげないと。
「あー、ほら、大丈夫だよ。これ。ジャジャーン」
そう言って社員証を見せつけた。
「え???『CROSS』……あああああああああああああ!!!!!!!!」
ドシーン!!!
派手に驚き、ピカピカに磨かれた床に倒れこむ絵那ちゃん。
「し、しりもち!!?大丈夫だって、大丈夫だってー!絵那ちゃん!!!わたし!!!関係者!!!」
一歩ずつスタスタと近づくわたし。
「あ、あぁあああ、あぁああああぁああ!!!!!!」
まるで猛獣を目の前にしたかのような反応を見せながらズリズリと後ずさる絵那ちゃん。
「大丈夫だって!!!大丈夫だって!!!」
スタスタ
「だ、大丈夫じゃない……ありえないってえ……ありえないってえ!!!」
ズリズリ
「と、とりあえず落ち着こう、絵那ちゃん……」
スタスタ
「無理、無理って!!!感情が!!!」
ズリズリ
「感情って何よ!!!教えてよ!!!ねえ!!!」
スタスタ
ズリズリ
スタスタ
……
「あんま共用部分で騒がないでねぇ♥」
「「……はい」」
ズーン……
……わたしのCROSS最初のイベントは……まさかのお説教であった。
玲さんのお説教が終わってから、絵那ちゃんと二人、CROSSの会議室に残されたわたし。
お説教という大嵐を乗り越えたわたしたち二人の距離は、不思議と縮まっていた。
「……玲さん、怖かった。」
「……でしょお?」
「現れたと思ったら……わたしたちの首根っこを掴んで……引きずって……ブルブル」
「あの人はぁ、本来は怖いんだよ。普段優しいだけで。」
「はぁ……何となくそんな気はしてたよ。」
「ふふ……ねえみゅう、ごめんね。」
「え?」
「あんなに騒いじゃって。だってずっと後悔してたんだよ。」
不意に寂しそうな表情を見せる絵那ちゃん。
「……何が?」
「みゅうと絶縁しちゃったこと。心のどこかで、『たとえCROSSだとばれていても、それでも親友でいたい』って思ってた。」
「……」
絵那ちゃん……
「だから。もう一度会えたこと、とっても嬉しかったんだ。それで、感情が追い付かなくなって……」
「あ、ありがとう。」
「……でも、明らかにテンパってるあたしの前で『CROSS入隊』って超衝撃事実をぶちかますのは流石によくないと思うよお!!!何事も手加減ってもんがあるでしょ!」
一気にムスっとしながら正論をぶちかましてきた……
「ご、ごめん!悪気はなくて……」
「はぁ……まあいいよ。みゅう、意外と不器用なところあるねっ。」
「はは……ところで絵那ちゃん?」
「ん?」
「聞いていいことかはわからないんだけれど……」
「いいよ別に~」
「わかった。あのー、今日学校いなかったじゃん……何でジャージなの?」
「ギクッ……あー……社員の人たちに、不登校気味ってばれたくなくて……」
ばつが悪そうに目を泳がせる絵那ちゃん。
「え?……ははは、そうか!!!そりゃそうよね。わたしだってそうするよ。」
「……ふふ。不器用なのはお互い様、ね。」
「……そうかもしれない。」
会話が弾む。やっぱり相性がいいのだと思う。
「……新メンバーが来るってのは知ってたんだよ。でもまさか、みゅうだったなんて……て、適合あったんだ、ね。」
「あるみたい。玲さんもめっちゃ強調してた。」
「ふぅーん……あんまり安全な仕事じゃないよ。」
「わかってる。でもやりたかったの。」
「そうなんだ……どうして、ってあたしが聞くことじゃないか。」
「うん、まあ……」
「そ、そうか。ごめんね。」
「いやいや、気にしないで!」
「はあ……そうか、CROSSになったのかぁ……これで、みゅうにはあたしがCROSSって隠す意味、なくなっちゃったね……」
「は、はは……そうだね。」
まさかそのために入隊しただなんて……言えないよ……
「さっきも言ったけど、あたし、みゅうともっと仲良くいたい。せっかくおんなじ立場になれたことだし……絶縁解消、でいいよね?」
そう言って拳を差し出した絵那ちゃんに、
「もちろん!」
わたしの拳を合わせる。予想通り。これで晴れて絶縁解消、だ!
「……ふふ、なんかいいね。こういうの。」
ウィーン
そのとき、会議室の扉が静かに開いた。玲さんだ。もうすっかりいつもの優しいモードに戻っている。
「朱音さん、さっきは言い過ぎた。ごめんね。」
「い、いや……気にしてないです。玲さんが謝ることじゃ……」
「ふふ、ありがとう……あっ、忘れるとこだった……体験変身、準備できたよ!ついてきて。」
「わ、わかりました……」
「絵那も来て。みんなへの新メンバーお披露目も兼ねてるから……」
「はーい……みゅう、お先に失礼。」
そう言って絵那ちゃんは小走りで出ていった。
「お披露目って……メンバーはみんないるんですか?」
「うん、いるよ!みんな悪い人じゃないから安心して。」
「はい……」
「いい人」とは言わないあたり何かありそうだが……まあいいや。
とにかくわたしは……いよいよCROSSとして変身する時が来たのだ。
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