第3話:いつもと違う昼休み
俺はいつものように黙々と仕事・・・しようとしていた。
だが気になる事があって、集中できない。
なぜなら昨日の配信の雑談が、会社での昼休みでの鈴木さんとの会話内容そのままだったからだ。
つまりはその会話を聞いていた人物が配信者クエリという事になる。
(もし、そうなら鈴木さんか工藤さんって事になるが、クエリは女性だから工藤さん・・・なのか?)
もちろん偶然会話が似通った可能性は高い。
ただ、気になって仕事に全く集中できない。
なんとか確認する事は出来ないだろうか?
(顔は難しいな。コスプレ時はかなり化粧をしていたし、工藤さんは眼鏡をしているから素顔を見る事は難しいだろう。となると・・・声か?)
声なら今までも聞いていたが、印象があまりない。
だがそれなら確認可能だ。
◇◇◇
工藤さんは黙々と仕事をするタイプなので、ほとんど人と話すことがないため声は全く聞けなかった。
仕事を聞くふりをして声を聞く作戦も考えたが、ことごとくタイミングを逃し結局昼休みになってしまった。
さすがに昼休みに仕事の事で話しかけるのはNGだろう。
でも、どうにも気になって仕方ない。
しかし、その時ふと思いついた。
(そういえば昨日、工藤さん漫画を見ていたよな。それを使えばうまく会話に持ち込めるのでは?)
人と話すのが苦手な俺は基本自分から会話を振ったことはない。
ためらいはあったが、興味がそれを上回った。
「くっく・・・工藤さん、すみません。あの・・・最近どんな漫画読んでます?」
もっと自然に話しかけるつもりだったが、少しどもった上に何か唐突になってしまった。
工藤さんは少し時間を置いた後、いぶかしげな表情で俺の方を見た。
「私に何か言いました?」
俺は精いっぱい声を出していたのだが、かなり小さな声だったようだ。
「ああ、すみません。その・・・私は漫画好きなので、なんか・・工藤さんが・・いや女性がどんな漫画を読んでいるのか気になりまして・・・。」
「・・・。」
「その・・・私が見ない作品に出合える可能性もあるかもしれないので。」
自分でも苦しい理由だ。
俺は会話のセンスが絶望的にない。
「リサーチ的なものですか?まあいいでしょう。そのかわり、私の読んでいる作品の否定や中傷などはやめてください。後、他言無用でお願いします。」
「私も漫画を愛する者としてそんな事はしませんし、口も堅いです。」
それから彼女は自分のスマホを見せて、好きな作品を紹介してくれた。
「今よく見ているのは、悪役令嬢ものですね。その中でもタイムリープものを結構見ています。」
「ジャンルとしては有名ですが、私はあまり見たことないですね。」
「面白いと思っているのが、【悪役令嬢は罪を償うまでやり直す】ですね。」
「濃そうなタイトルですね。」
「悪役令嬢が悪行を繰り返し処刑されるところから始まり、人生をやり直すためにタイムリープを繰り返すという内容です。今まで不幸にしてきた人間達を全員救うまで何度もやり直すのですが、それによって人として成長していく物語です。」
「異世界で悪役令嬢になるというのは見た事あるんですが、それとは違うものも結構あるんですね。」
「異世界転生ものは昔は見ていました。悪役令嬢に転生して、周りに優しくするだけで慕われたり、尊敬されたりするのに憧れました。」
「工藤さんは真面目だから、簡単に〔私凄いでしょ〕みたいな漫画好きじゃないと思ってました。」
「いえ・・・私は昔から要領が悪かったので、周囲からいつも鈍臭いと言われてました。だから、その悔しい気持ちを解消するために当時は読み漁って自分を癒していました。」
「要領が悪い?そんな感じしませんが・・・でも、その気持ちわかります。」
「でも今はそこまで悔しい気持ちはありません。」
「そうなんですか?」
「そうですね・・・と、そういえば昼食がまだでした。中野さんも昼食を取らないと昼休みが終わりますよ。」
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