第2話:いつもと違う違和感
今日も会社でいつもと同じデータ整理と書類作成だ。
今日も8時から配信があるので定時で帰れるようにノルマをこなすべく黙々と仕事をする。
チャイムの音が鳴った。
いつの間にか時間が過ぎていたようだ。
「お・・・もう昼休みか?」
社員は次々と食堂へと移動していくが、俺は自分の机で昼食を取る。
なぜなら食堂はいつも混んでいて、誰かの前や隣に座る事になる・・・それは人とのコミュニケーションが苦手な俺にとってはこの上ない苦痛だからである。
ちなみに隣の席の工藤さんもいつも自分の机で昼食を取っている。
俺と同じ理由だろうか?
いつものようにスマホを取り出し、大好きな異世界漫画を見ながら昼飯を食べていると、誰かが後ろから声をかけてきた。
「その漫画面白い?」
俺が慌てて振り返ると、スーツ姿のスマートなイケメンが立っていた。
「鈴木さん驚かさないで下さいよ。」
「驚かせるつもりはなかったんだ。それより隣の席で昼食取ってもいい?」
「ああ、ここは空席だから好きに使ってください。しかしなぜここで?」
「今日は課長から飲みに誘われそうだったから、昼休みに食堂や自分の机にいると面倒な事になるんだよ。」
「なるほど。人気者も大変ですね。」
「別に誰でもいいのさ。最近はみんな飲み会を嫌がるから飢えているんだろうね。」
「それより、さっき見ていた漫画面白い?」
「ああ、【不死の勇者の復讐劇】ですか。面白いですよ。」
鈴木さんは俺と同じ年だが、正社員で仕事も出来て人気者のイケメンだ。
俺とは真逆だが、同じように異世界ものが大好きで仲良くなり、たまに昼休みに雑談するようになった。
「不慮の事故で亡くなった主人公が女神から不死の力を貰って異世界転生するんですが、他の勇者と違って戦う力を持たないがゆえに無能と判断され、酷い扱いを受けてしまうんです。そこから復讐のために成り上がるストーリーですね。」
「よくある復讐ものか。」
「たしかによくある題材ですが、キャラに魅力があるんです。特に主人公を支える獣人の【クロエ】が可愛いんですよ。」
「ふーん、じゃあ読んでみるか。」
その後も異世界漫画の事で情報交換をした。
「もう昼休みも終わるな。そろそろ席に戻るよ。」
彼はそう言うと自分の席に戻らず、なぜが隣の工藤さんの後ろにスッと移動した。
彼女は気付かずスマホを見ていた。
「工藤さんも漫画とか見るんだね。」
後ろから突然声をかけられて工藤さんはスマホ画面を隠しながら、振り返る。
「な・・・なんですか。お・・・驚かせないでくださいよ。盗み見なんて趣味悪いですよ。」
「ああ、ごめん。驚かせる気も、盗み見する気もなかったんだよ。ちょっと頼んでいた仕事の事で直接聞きたい事があって・・・。」
すると工藤さんは眼鏡の位置を直し、さっきまでの動揺など微塵も見せない冷静さで答えた。
「それは頼まれた契約書の文面についてですか?」
「そうそう、それで・・・。」
そして二人は仕事モードに入ったが、俺は彼女がどんな漫画を見ていたかが気になった。
◇◇◇
「無事に配信時間に間に合ったな。今日も一日お疲れ様だ。」
俺は自分を称えて配信を待つ。
そしていつものように配信が始まった。
「ニャホ、ニャホニャホー!クエリの異世界配信始まるよー!」
聞きなれた挨拶だ。
そして、いつものように挨拶のコメントを打つ。
『こんばんニャホ』
配信内容はいつもと同じ異世界漫画の雑談のようだ。
「今日も昨日と同じ雑談か。好きだからいいけどね。」
それからいつものようにコスプレいじりから始まり、異世界漫画の雑談へと入った。
「ウチが今回紹介するのは【不死の勇者の復讐劇】」
(ん?これは俺が最近注目している作品だな。)
「不慮の事故で亡くなった主人公が女神から不死の力を貰って異世界転生するニャホ。でも、他の勇者と違って戦う力を持たないから無能と判断され、酷い扱いを受けちゃう。そこから頑張って復讐のために成り上がるって内容だにゃん。」
『ついに来たか』
『どっかで聞いたようなタイトルだな』
『また復讐ものか。テンプレ、テンプレ』
「たしかによくある復讐ものだけど、キャラに魅力があるんだにゃん。特に主人公を支える獣人の【クロエ】が最高なんだニャホ。ウチも獣人だから、うれしいにゃん。」
(なんか、何か違和感・・・いや既視感?)
俺は何か変な感覚が沸き上がった。
『なんか臭そう』
『また獣人か。テンプレ、テンプレ』
『好きな作品。最近仲間になった【アズラ】がいいのよね』
「アズラ?それは知らない・・・。最近同僚が話しているのを聞いて読み始めたから・・・って今の無しにゃん!」
『同僚って異世界設定ぶち壊し』
『ドジっ子設定追加ですか?』
『またドジっ子か。テンプレ、テンプレ』
『それ、もうテンプレ言いたいだけだろ』
その話を聞いて既視感の正体がわかった。
(そうか・・・俺が今日、鈴木さんと話した内容とほとんど同じなんだ。)
その後も雑談は続いたが、他の紹介漫画も既視感を感じるものだった。
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