女王陛下、ぐうたら経済成長
王国の玉座の間。
そこには、王国中が誇る最も気高く、最も美しい女性――女王フィオナが君臨していた。
彼女は漆黒の長髪を豪華な王冠で飾り、宝石が散りばめられたドレスに身を包んでいる。
その気品あふれる姿は、民だけでなく国外にも知れ渡り、まさに「女神の化身」とさえ呼ばれる存在だった。
少なくとも、それが普段の彼女の姿だった。
その日の午後。王城の最上階にある女王専用の部屋では、少し違った光景が広がっていた。
「はぁ~……今日も仕事多すぎ……もうやだ~」
豪華な天蓋付きのベッドの上で、フィオナはだらしなく大の字になり、伸びをしていた。
玉座の間のあの気品あふれる姿はどこへやら。
今の彼女は、ローソンで買ったグレーのショーツとタンクトップという、リラックスモード全開のいでたちだった。
お腹はほんの少しぽっこりしていて、近くに散乱する宅配ピザやお菓子の空袋やカップ酒が、その理由を語っている。
「こんなに働いてるんだから、休む権利くらいあるよね~」
休む権利はあるかもしれないが、たんなる、ぐうたらの極みである。
フィオナはさらに、口元にショコラケーキの一切れを運び、魔法のスクリーンを操作してお気に入りの韓流ドラマを再生し始めた。
「うん、今日も私頑張ってる。これでいいのよ」
そう自分に言い聞かせながら、フィオナはまた一口ケーキを頬張った。
そこへ、突然のノック音が響く。
「女王陛下、失礼します!」
フィオナは一瞬で凍りついた。
(やばっ! 誰!? 今の私の姿見られたら、女王失格どころか……!)
彼女は慌てて近くにあったクッションを掴むと、膨らんだお腹を隠す。しかし、身だしなみを整える暇もなくドアが開いた。
「お久しぶりです、陛下! 地方巡視より戻りまして、ご挨拶に伺いました!」
元気いっぱいの声と共に入ってきたのは、近衛隊長である若き騎士、エリックだった。彼は金髪碧眼のいかにも真面目そうな青年で、幼少期からフィオナに仕えてきた忠実な部下だ。
「えっ……エリック!? ちょっと待って! 入ってこないで!」
フィオナの叫びも虚しく、エリックはすでに部屋の中央に立っていた。
そして――
「……え?」
彼の目に映ったのは、豪華な部屋の中に散らばるお菓子の空袋と、グレーのショーツにタンクトップ姿でクッションを抱える女王の姿だった。
そしてグレーのショーツには『ローソン』のロゴマークが……。
「えっ、女王陛下……?」
エリックの声が驚きに震える。
「み、見るなぁーっ!!」
フィオナはクッションを振りかざし、なんとかエリックの視界を遮ろうとするが、彼の視線は既にそのぽっこりとしたお腹に釘付けだ。
「ちょ、陛下……そのお腹……?」
エリックの声には隠しきれない笑いが混ざっている。
「うるさいっ! これは……あう、王国の経済成長に伴う成果みたいなもので……!」
フィオナは必死に言い訳をするが、エリックはついに堪えきれず笑い声を上げた。
「ぷはっ! 陛下、それは……あはは! 経済成長ですか!? いやいや、それどう見てもお菓子の食べ過ぎですよね!?」
「黙れぇーっ!!」
真っ赤になったフィオナはクッションをエリックに向かって投げつける。しかしエリックはそれを片手で受け止め、まだ肩を震わせて笑っている。
「だって陛下、普段はあんなに気高いお姿なのに……いや、ギャップが凄すぎて……」
彼の笑い声は部屋中に響き渡り、フィオナはとうとう力尽きたように両足を広げたままベッドに座り込んだ。
「もう……分かったわよ……」
小さく呟くフィオナ。
その姿は、もはや女王というより普通の一人の女性だった。
その後、エリックはなんとか笑いを堪えつつ、報告を終えて部屋を出ていった。去り際、彼は振り返り、こう言った。
「陛下、皆には言いませんよ。でも……その姿、案外悪くないですね。親しみやすいというか」
そう言い残し、彼は去っていった。
「ふんっ……言われなくても分かってるわよ……」
フィオナは再びベッドに倒れ込む。
「明日から……ちゃんと玉座に戻るんだから……明日からね……」
そう呟くと、彼女はスクリーンに映るドラマを再生し直し、またショコラケーキに手を伸ばした。
「あ、明日は韓流ドラマのまとめ配信があるんだったわ、明後日からにしましょう」
エピローグ
数日後、玉座の間で気高い姿を見せる女王フィオナ。
その端正な立ち姿に、誰もが改めて彼女を「女神の化身」と称える。
しかし近衛隊長のエリックだけは、心の中でこう思っていた。
(でも……あの、ぐうたらぽっちゃり女王陛下も悪くないかもな)
彼は密かに微笑み、今日も忠実に女王を守るのであった。
【だらしない】女神様、ぐうたら日和【ぜい肉シリーズ】 月詠 透音(つくよみ とーね) @insyde
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