伝説の女剣士、ぐうたら修行

 王国北部にそびえる山々。

 その中でも一際高い山の中腹には、誰もがその名を知る「伝説の剣士」【レオナ・ティルガード】が隠遁生活を送っていると言われていた。


 彼女は若き頃から戦場を駆け抜け、数々の戦いで国を救った英雄である。その美しい黒髪、猫のような瞳、そして完璧に鍛え抜かれた体は、民衆の憧れの的だった。

 ……しかし、その姿を最近見た者はいない。




「伝説の女剣士??……伝説のぐうたら女剣士の間違いじゃないのか?」

 

 若き剣士カイルは村人から悪い噂を耳にし、山道を歩いていた。彼はレオナの最後の弟子で、修行を終えるため、師匠の元へ報告にやってきたのだ。


「でも、いくら何でも噂がひどすぎる。山に引きこもって、毎日ゴロゴロしているなんて……レオナ師匠がそんな人なわけない!」


 カイルはレオナの勇姿を思い返した。

 鋭い剣技で敵を圧倒し、冷静かつ凛々しい姿で部下たちを率いる師匠――それこそが彼が知る「伝説の女剣士レオナ」だった。


 しかし、彼が師匠の隠れ家にたどり着き、扉を開けた瞬間――その幻想は音を立てて崩れ去った。


「ふわぁぁ~……もう昼かぁ……」


 室内には、信じられない光景が広がっていた。

 床にはクッションや毛布が散乱し、テーブルの上には食べかけのパンやチーズ、そして魔法炭酸水が転がっている。壁際には空になった酒瓶がいくつも並べられ、魔術配信のM(魔術師大戦)-1グランプリの模様が天井に映し出されている。

部屋全体に「生活感」という名のカオスが漂っていた。


 そして――


「おーい、誰だー?」

 ソファの上でだらしなく横になっていたのは、間違いなくレオナだった。だが、彼女の姿は、かつての英雄像とは程遠いものだった。


 黒髪はとりあえずまとめられているが、顔には枕の跡がくっきり。

 鍛え抜かれたはずの体はどこへやら、ほんのり丸くなったお腹が、ゆったりとしたタンクトップの隙間から覗いている。

 

 そして――下半身は、どう見てもウサギ柄のショーツ一枚だった。

 

 まさに、ぐうたらの極みである。


「……師匠!?」

 カイルは目を見開き、硬直した。


「ん?」

 レオナは寝ぼけた目を擦りながら、カイルを見上げる。そして、数秒の沈黙の後――


「えっ!?カイル!?なんで来たのよ!?」


 彼女は慌てて起き上がり、ソファに転がっていた毛布でお腹を隠そうとするが、その動きはどこか鈍く、ぽよんとした腹が一瞬強調される結果に。


「な、なんでノックしないの!  師匠のプライベートを尊重しなさいって、教えたわよね!?」


「いや、師匠……それ以前の問題だと思うんですけど……」

 カイルはあまりの衝撃に呆然としながら、目の前のカオスを指差す。


「これ、どう見てもただのぐうたら生活じゃないですか!」


「ぐ、ぐうたら生活じゃない! これは、その……体力を温存するための特別な休息なの! 次の戦いに備えてるのよ!」

 レオナは言い訳を重ねながら、さらに毛布でお腹を隠すが、その仕草はむしろ滑稽である。


「次の戦いって、もうずっと戦場には出てないですよね? 師匠、最後に剣を振ったのっていつですか?」

 カイルの鋭い指摘に、レオナは顔を赤くしながら視線を逸らした。


「えっと……そ、それは……」


「……師匠、それもしかして10年前じゃないですか?」


「黙れぇ!!!」

 真っ赤な顔で叫ぶレオナ。しかし、その声に威厳はなく、どこか必死さが漂う。


 


 その後、カイルはため息をつきつつ部屋の片付けを手伝いながら、剣技の報告を行った。

 レオナは「まあまあ、そんなに真面目にならなくてもいいじゃない」と笑いながらワインを空け、途中でうたた寝を始めてしまう始末。


 最終的に、カイルが帰り際に一言。


「師匠、そろそろ現役復帰とか考えませんか? このままだと、『伝説の女剣士』じゃなくて『伝説のぐうたら女剣士』になっちゃいますよ?」


 その言葉に、レオナは毛布を握りしめながら言った。


「うるさいわね! ……でも、少しは運動するかな。……明日からね!

 いや明日は韓流ドラマのまとめ配信をみるから、明後日から本気でやるわ」


 カイルは小さく笑いながら、彼女の隠れ家を後にした。

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