第20話『作曲した楽譜』


 結愛は、出来上がった楽譜を持ち、再び長谷川家へ向かう決意を固めた。

 心の中に不安が湧き上がる。

 あの頃の自分の作った曲に、今の自分がどれほどの力を加えられるのだろうか。

 けれど、不安があるからこそ、それを乗り越えた先に答えがあるのだと信じている。

 

 長谷川家に到着。

 女神アリアは最近、よく長谷川家にお泊まりしていた。


「おう、結愛。来たか」

 奏斗が玄関で出迎えてくれた。

「うん、お邪魔していいかな?」

「もちろんだ。ほら、入ってくれ」

 そう言って、スリッパを出してくれた。


 廊下を通り、リビングへ。

 広いリビングのソファーで女神アリアがくつろいでいた。

 結愛は早速、女神アリアに楽譜を見せるために声をかけた。


「アリア様、出来ました」


 結愛は、真剣な眼差しで女神アリアを見つめた。

 女神アリアはその言葉を静かに受け止め、結愛の目を見返した。


「見せるのじゃ」


 結愛は、慎重に楽譜を差し出しながら言った。


「これ、私が作った曲なんですけど……」


 女神アリアは楽譜を受け取ると、その中身をゆっくりと見つめ、じっと楽譜を眺めた。途中、彼女の表情は変わり、時折、頷きながら音符たちを確認していく。


「ふむ、この曲は――ふむ、なるほど――」


 女神アリアはしばらく黙ってその楽譜を見つめていたが、やがて顔を上げて結愛に微笑んだ。


「心配いらんのじゃ、結愛。お主が心を込めて作ったこの曲は、かなり良い。オーケストラの楽譜にしてもそのままの力を失わぬように、わしの友神に託す。なので安心するのじゃ」


 結愛は安堵したように微笑んだ。


「本当に、ありがとうございます」


 彼女は深くお辞儀をし、その後、女神アリアにもう一度感謝の言葉を伝えた。


「ただし、オーケストラ用に編曲するには少し時間がかかる。完成するのは、おそらく一週間後じゃな」


 女神アリアは少しだけ眉をひそめ、申し訳なさそうに言った。


「一週間後に、出来るんですか?」

「おそらくじゃが、遅いかの?」


 いや、かなり早い方だ。


「わかりました。お手数おかけしますが、よろしくお願いします」

「うむ、任せておけ」


 女神アリアは軽く頷き、結愛を安心させるように微笑んだ。

 その後、結愛は少し考え込んだ。オーケストラの演奏に向けてできることは、今はこれ以上ないと思った。時間が経てば、編曲された楽譜が届き、そこで初めて次の段階へ進むことができる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る