第13話『道草』
放課後、学校の鐘が鳴り響いた。
「じゃあ、わたしは部活だから、行ってくるね!」
「うん、じゃあね。沙月」
沙月は漫画・イラスト部。結愛は帰宅部。
結愛は沙月と別れ。いつものように教室を出る。
スクールバックを肩にかけて廊下を歩いていた。今日は、何となく心に余裕があり、足取りも軽やかだ。昼食の時間に奏斗と沙月と過ごした穏やかなひとときが、まだ心に温かさを残している。
その時、後ろから足音が近づいてきた。
「神織!」
奏斗の声が響き、結愛は振り返ると、彼が少し照れたように笑いながら歩いてきた。
「長谷川くん?」
結愛は、少し驚きながらも、彼に軽く手を振った。
「どうしたの?」
「ちょっと道草しないか?」
奏斗はにっこりと微笑んだ。いつもより少しゆっくりとした歩調で歩いていた彼の様子に、結愛は一瞬立ち止まり、少し考えた。
「道草って……何かするの?」
結愛は少し首をかしげながら聞いた。
「コンビニ行こうと思って。アイスでも買って、公園で食べよう」
奏斗は自然体で答え、歩みを進めた。
結愛はその提案に、少しだけ驚きながらも、すぐに頷いた。
「うん! 行く!」
二人は並んで歩きながら、駅前の近くのコンビニへ向かう。道すがら、街の風景や通り過ぎる人々の様子が、何だかいつもと違って新鮮に感じられる。奏斗と並んで歩いているだけで、心が少し落ち着くのがわかる。
コンビニに到着すると、二人はアイスを選んだ。
結愛は迷うことなく、チョコレート味のアイスを手に取った。奏斗は、少し考えた後、バニラのアイスを選んだ。
アイスを手にした二人は、そのまま近くの公園へ向かう。公園には、まだ放課後の陽光が温かく降り注いでいて、遊具で遊ぶ子どもたちの姿がちらほら見える。静かな午後のひとときだ。
公園のベンチに腰を下ろすと、奏斗はアイスを取り出し、ゆっくりと食べ始めた。結愛も、それに倣ってアイスを口に運ぶ。チョコレートの甘さが広がり、ひんやりとした冷たさが心地よい。
しばらく二人は、何も言わずにアイスを食べながら、静かな時間を過ごしていた。奏斗がふと顔を上げて、結愛を見つめた。
「神織、最近、ちょっと気になっていることがあるんだ」
奏斗が突然そう言ったので、結愛は少し驚いて顔を向けた。
「え? 何?」
結愛はアイスを食べる手を止めて、彼に問いかける。
奏斗は少し間を置いてから、少し照れくさそうに言った。
「なんか、結愛と一緒にいると、楽しいんだ。さっきの昼休みも、すごく楽しかったし……」
結愛はその言葉に、少し驚きつつも、心の中で温かい気持ちが広がるのを感じた。彼の真剣な眼差しに、思わず心が動かされる。
「長谷川くん……」
結愛はゆっくりとその名を呼び、彼の目をじっと見つめた。何か言いたいことがある気がして、口を開こうとした瞬間、奏斗が続けて言った。
「神織といると、すごく落ち着くんだ。なんだろう、あんまり考え込まずに、普通に過ごせるっていうか」
奏斗は照れ隠しにアイスを口に運びながら言った。その表情はどこか、いつもの真面目な顔ではなく、少し柔らかさを帯びている。
結愛はその言葉に胸が高鳴り、少し口元を緩めながら答えた。
「私も、長谷川くんといると、なんか安心する。なんていうか、心が落ち着くんだ」
その言葉に、奏斗は驚いたように目を見開き、そして微笑んだ。
「そうか。神織も、そう思ってくれてるんだな」
しばらく無言でアイスを食べながら、二人は静かな時間を楽しんだ。時折、風が吹き抜け、周りの木々が揺れる音が心地よい。結愛はふと、少し遠くを見つめながら、これからのことを考えていた。奏斗との関係は、少しずつ変わっていっている。心の奥で、何か大きな変化が起こりつつあることに、少し戸惑いながらも、どこか嬉しさを感じていた。
「あのさ」
「ん?」
「ありがとな」
「え?」
「妹を元気にしてくれて」
「まだ、呪いが……」
「わかってる。けど、お礼が言いたかったんだ」
「そっか……」
アイスを食べ終わると、二人は立ち上がり、再び歩き出した。奏斗が少し顔を向けて「神織、今日はありがとう」と、柔らかく言った。
「ううん、私もありがとう」結愛は、自然に笑顔を返しながら歩いていった。
静かな夕暮れの中で、二人の距離は少しずつ縮まった。
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