第12話『心の距離』
昼休みの鐘が鳴り響き、教室が騒がしくなる中。
結愛はトイレで手洗いをしていた。
心の中にはまだ、今日の音楽の授業で起こった出来事が鮮明に残っている。
天使のような存在が現れ、舞い踊ったこと。音楽を超えた何かを感じた。
トイレから出ると。そこには奏斗が立っていた。
少し照れくさそうな笑顔で。
「神織、昼休み、一緒に食べよう」
結愛はその言葉に少し驚きつつも、微笑みながら頷いた。
「うん、いいよ」
そのまま二人は、食堂へと足を向ける。
途中、生徒達のたちのざわめきが聞こえる中、結愛と奏斗は無言で歩いた。彼女の心の中には、今日の音楽室での事――そのことで頭がいっぱいだったが、奏斗との距離は以前よりも少し近づいているような気がした。
食堂に着くと、結愛の友人である沙月が待っていた。彼女はいつものように、明るく元気な笑顔を見せて結愛を迎えてくれる。
「結愛~!」
沙月はにっこりと微笑み、手を振って結愛を誘うように呼びかけた。
「長谷川くんも、一緒だね」
「うん」
結愛は、少し照れた様子で答えながら、席に座った。そして、奏斗も座る。
「それにしても、最近、2人とも、仲いいよね?」
その言葉に、結愛は少し頬を赤らめた。沙月は、結愛が何か気恥ずかしそうにしているのをすぐに察し、ニヤリと笑った。
「結構、相性いいんじゃない?」
沙月は、結愛と奏斗を交互に見ながら、嬉しそうに続けた。
「見てると、なんか微笑ましくなっちゃう」
結愛は、何となく顔を背けながらも、心の中で思った。確かに奏斗との関係は、少しずつ変わってきている気がする。それが嬉しいのか、戸惑っているのか、今はまだよくわからなかった。
奏斗は、沙月の言葉に少し照れたように首をかしげ、
「まあな」
「ふふ、まぁまぁ。二人とも、お昼しっかり食べなきゃだめだよ!」
沙月が笑って言うと、三人の間に和やかな空気が流れた。奏斗は食事を取りながら、結愛に話を振った。
「結愛、今日の音楽の授業、すごかったね。天使が出てきたって、本当に驚いたよ」
その言葉に、結愛は一瞬、息を呑んだ。自分が奏でた音楽が引き起こした出来事。天使が舞う姿を目にしたこと、そして、音楽を超えた何かの感じた。
「うん、私もびっくりした。でも、あれって、私が何かを意図したわけじゃないんだよね。突然、ああなっちゃって」
「でも、あれだけの力を使えるって、神織は、すごいぞ。あんなこと、普通はできない」
奏斗は結愛を褒める。
「うーん……どうだろう。私も、まだその力がどう使うべきなのか、よくわかってないし」
結愛は言葉を選びながら、少し考えるように言った。
その瞬間、沙月がぱっと顔を輝かせて言った。
「だよね、だよね。やっぱ結愛って天才だよね!」
結愛は沙月の言葉を聞いて、少し照れながらも、頬をかすかに赤らめた。
奏斗はその様子を見て、微笑みながら言った。
「美野原の言う通りだ。神織は天才だ」
その言葉に、結愛は何となく嬉しさを感じて、ほんのりと頬を染めた。
三人での昼食は、少しの沈黙とともに、穏やかに続いていった。会話は流れ、時折笑い声もあがり、結愛の心は少しずつ軽くなっていった。
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