森「イカ飯の伝説」


森町、静かな夜が更ける頃、森駅のプラットフォームに一筋の冷たい風が吹き抜ける。古びた駅舎の影から、かすかに魚の匂いが漂う。ここは、一見何もないただの田舎の駅だが、夜更けに訪れる者だけが知る、ある怪奇な話がある。


戦時中、食糧難から生まれた「いかめし」。その起源は、■■商店の佳子という女性にさかのぼる。佳子は、米の配給が少ない中で、どうやって家族を養うか悩んでいた。ある夜、夢の中で海底の深い闇から大きなイカの触手が伸びてきて、彼女にささやいた。「私の身を捧げれば、飢えを凌ぐことができる」。


佳子はその言葉に従い、豊漁だったスルメイカを使って初めての「いかめし」を作った。しかし、その代償として、佳子はイカの霊に魂を一部奪われた。彼女は生前は穏やかな女性だったが、死後、その魂は駅に取り憑き、夜な夜な出現するようになった。


夜が深まると、森駅のホームに佳子が現れる。彼女の姿は半分が人で、もう半分が巨大なイカ。彼女は、駅に立ち寄った旅人に、かすかな声で「食べなさい」とささやく。抵抗する者には、触手が伸びてきて、体を締め付け、息ができなくなる。ただ、彼女の「いかめし」を食べることを受け入れた者には、佳子は微笑み、無事に帰路を示す。


しかし、食べた者たちは、後日、突然海のことを夢に見るようになる。夢の中では、深海の底からイカの群れが迫ってくる感覚に襲われ、恐怖に目覚める。そして、その恐怖は、時折現実にも影響を与える。水辺に近づくと、背後から何かが見つめている気配がするのだ。


この怪談は、戦時中の悲劇と佳子の献身が結びついた、不気味な伝説として、今も語り継がれている。

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