八雲「八雲町の奇稲田姫」

北海道の澄み切った空の下、八重町という小さな村がありました。その村は、出雲の神話から名を取ったもので、村人たちは「八雲立つ 出雲八重垣 妻籠みに 八重垣作る その八重垣を」という古歌を代々大切に歌い継いでいました。


八重町の中心には、美しい湖があり、その湖畔には奇稲田(くしなだ)姫を思わせるような美しい娘、桜子が住んでいました。桜子は村の誰もが認める美貌と優しさを持ち、彼女が歌う古歌は村人たちの心を癒す力を持っていました。


しかし、ある年の長雨が村を襲い、湖水は溢れ、村は水没の危機に瀕しました。村人たちは知恵を出し合い、堤防を作ることを決めました。それはまるで、出雲の神話で須佐之男命が奇稲田姫を守るために作った八重垣のようでした。


数々の困難を乗り越え、堤防は完成しました。村人たちはこの堤防を「八重垣」と名づけ、桜子がその完成を祝して古歌を歌いあげたとき、奇跡が起こりました。雨は止み、雲間から太陽が顔を出しました。


しかし、喜びも束の間、完成したばかりの八重垣に亀裂が走り、水が漏れ始めたのです。村人たちは慌てて修復に取り掛かりましたが、水は止まらず、村は再び水没の危機に直面しました。


桜子は村を守るため、自分が犠牲になる決意をしました。彼女は古歌を歌いながら湖に身を投じ、その瞬間、湖の水は静かに引いていきました。村は救われましたが、桜子の姿は二度と見つかりませんでした。


それから数年後、湖の底から一輪の桜が咲き、村人たちはそこに桜子の魂が宿っていると信じました。以来、毎年春になると、村人たちは湖畔で桜の花を愛でながら、桜子に感謝の祈りを捧げ、「八雲立つ 出雲八重垣 妻籠みに 八重垣作る その八重垣を」と、彼女が愛した古歌を歌い続けました。


こうして、八重町の悲劇は、村人たちの心の中に永遠に語り継がれる物語となりました。

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