芽室「からくり時計」

芽室駅は、十勝地方の静かな町に位置し、そこには町のシンボルとも言える美しいからくり時計が存在します。その時計は毎正時に音楽と共に動き出し、地元の歴史や文化を表現した人形たちが踊りだすことで知られています。


しかし、そのからくり時計には、誰も知らない暗い秘密がありました。ある秋の夕暮れ、その時計の正時に動き出す人形の中に、人間の表情をしたものが混ざっていると、駅員のリョウコは気づきました。最初は錯覚かと思いましたが、翌日も、そしてその次の日も、その人形は確かにそこにいました。


リョウコはその人形に違和感を覚え、調べることにしました。彼女が時計のメンテナンス扉を開けると、そこには普通の人形とは違う、異様にリアルな顔を持つ人形が一つ、他の人形と混ざっていました。しばらく見つめていると、その人形の目が彼女を見返すように光り、リョウコは恐怖で動けなくなりました。


その夜から、リョウコの夢の中にその人形が現れるようになりました。夢の中で、人形は彼女の手を引き、時計の内部へと導きます。そこには、絶えず動き続ける機械音と、無数の歯車が回る音だけが響く世界がありました。その人形は、リョウコに何かを強制するかのように、彼女の体を操り始めました。


毎晩、リョウコはその夢から逃れられず、現実でも徐々にその影響を受けるようになりました。彼女の行動は機械的になり、表情は硬直し、まるでからくり人形のようになりました。そして、彼女が最も恐れた瞬間が訪れました。ある正時、時計が動き出すと同時に、リョウコは自らの意志に反して、時計の人形と共に踊り出すのです。


その光景を見た人々は、彼女が何かに取り憑かれたかのように見え、その日からリョウコは駅に現れることがなくなりました。地元では、「芽室駅のからくり時計が人を選び、永遠にその中に閉じ込める」という噂が広まりました。


今でも、芽室駅のからくり時計が動き出す正時には、他の人形とは違う、異様にリアルな表情を持つ人形が見えることがあり、その人形はリョウコに似ていると言われています。そして、夜の静けさの中で、時計が毎正時に鳴り響くとき、人々はそのサイコホラーの話を思い出し、恐れを抱きながらも、目を離せないでいます。

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