紋別「ホタテの呪い」

紋別は、ホタテ漁で名を馳せる町です。その中でも特に裕福なホタテ漁師、金田は、町中の羨望の的でした。彼の漁船は常に大漁で、家は豪華なもので、家族も幸せに暮らしていました。しかし、その繁栄の裏には恐ろしい秘密が隠されていました。


ある秋の夜、金田はいつものようにホタテ漁に出ました。しかし、その夜は異常なほどの静けさに包まれ、海面は鏡のように静かでした。彼が網を引き上げると、そこにはホタテがいっぱいでしたが、その中には一つ、見たこともないほど大きなホタテがありました。


「これは何だ…」と呟きながら、そのホタテを手に取りました。だが、その瞬間、ホタテが開き、中から黒くて大きな目が金田を見つめました。その目には、恐怖と悲しみが混ざり合った表情がありました。


驚いた金田はホタテを海に投げ返そうとしましたが、手が動かなくなりました。すると、ホタテの口から声が聞こえてきました。


「私の家族を返して…」


その声に金田は恐怖を感じつつも、何を意味するのか理解できませんでした。漁船に戻ると、彼は急速に体調を崩し始めました。目まい、吐き気、そして見えない何かが彼を追いかけてくるような感覚に襲われました。


その夜から、金田の家では次々と異常事態が起こりました。家の中で聞こえるホタテの貝殻が擦れる音、夜中に響く海の波音、そして家族が次々と悪夢にうなされ、健康を害しました。


金田は、古い漁師から聞いた話を思い出しました。かつて、紋別の海で大漁を得るためには、海の神に生贄を捧げる風習があったこと、そしてその生贄が海に帰されなければ、代償として恐ろしいことが起こると。


金田は、自分があの巨大なホタテを捕まえたことで、海の神の怒りを買ったのかもしれないと考えるようになりました。彼は、再び海に出て、あのホタテを探し、海に返そうと決意しました。


しかし、再び漁に出たその夜、海は恐ろしく荒れ、金田は船を操ることができなくなりました。そして、彼は海に引きずり込まれるかのように、船ごと姿を消しました。


翌日、彼の船と遺体は見つかりませんでした。ただ、一つだけ大きなホタテが浮かんでいました。そのホタテの中には、何も入っていませんでしたが、開いた殻には、金田の家族の名前が刻まれているように見えました。


今でも、紋別の海で不思議な現象が起こる夜には、金田の家では、海の波音とホタテが擦れる音が聞こえると言われています。そして、金田の繁栄は、彼の命と引き換えに終わったと、地元の人々は語り継ぎます。

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