留萌は数の子の一大産地として知られ、毎年年の瀬になると、町は数の子加工で慌ただしくなります。ある年の大晦日、地元で最大の数の子工場では、最終の出荷作業が行われていました。

工場長の山田は、夜遅くまで残業する従業員たちを見守っていました。工場は活気に満ち、忙しいながらも、年の瀬の温かい雰囲気が漂っていました。しかし、その夜、工場の中で異常なことが起こり始めます。

夜が深まるにつれ、工場の奥から不思議な音が聞こえ始めました。最初は誰も気に留めませんでしたが、その音は次第に大きくなり、数の子を洗浄する水音に似てはいましたが、どこか不気味でした。

「何かおかしい…」と山田が感じた時、工場の電灯が一斉に点滅し始めました。そして、突然、工場の奥の冷蔵庫から冷たい風が吹き出し、異臭が漂いました。

従業員のひとりが、勇気を出して冷蔵庫を調べに行くと、その中には無数の数の子と共に、見えないはずの人間の足跡が残っていました。そして、その足跡は数の子の山を超えて、出口に向かっていました。

「これは何だ？」と驚く中、冷蔵庫の奥から一人の女性の幽霊が現れました。その女は、かつてこの工場で働いていたが、過労で命を落としたとされている者でした。

「私はここで忘れ去られた…」と彼女は泣きながら言いました。「この数の子と共に、永遠に働かされるのです」。

その瞬間、工場の機械が勝手に動き出し、数の子を洗浄する水が血に変わり、工場全体が血の海に包まれました。従業員たちは恐怖に駆られ、逃げ出そうとしましたが、出口は見えない壁に遮られていたかのように、再び工場の中に引き戻されました。

山田は、古い伝説を思い出しました。過労死した労働者の魂が、年末の忙しい時期に復讐として現れるという話です。

「私たちは、彼女を忘れていた…」と山田は悔やみました。彼は、工場の古い祭壇に供え物を捧げることを決意し、従業員たちと一緒に彼女の霊を鎮めるための祈りを唱えました。

その祈りが終わった瞬間、血の海は消え、幽霊も姿を消しました。工場は再び静けさを取り戻し、電灯も正常に戻りました。しかし、従業員たちはその恐怖を忘れることはできず、以降、年の瀬の仕事には特別な注意を払うようになりました。

今でも、留萌の数の子工場では、大晦日の夜に異常な現象が起こらないかと、従業員たちは恐る恐る仕事を続けています。そして、過労死した女性の霊の話は、労働者の安全と記憶を大切にする教訓として語り継がれています。