函館「夜のピエロ」

函館市の人気ハンバーガーショップ、ラッキーピエロ。昼間は観光客や地元の人々で賑わいますが、夜になると店内は静けさが支配します。しかし、ある夜の出来事はその静けさを打ち破りました。


ある夏の夜、函館駅前店が閉店間際の午後10時過ぎ、店員のミカが最後の片付けをしていました。彼女は店内を巡回しながら、テーブルを拭き、椅子を整えていました。すると、突然、店内の照明が一斉にチカチカと点滅し始めました。驚いた彼女が電気系統を確認しに行くと、そこには誰もいないはずのトイレに光が漏れていました。


恐る恐るトイレのドアを開けると、そこに立っていたのは、ラッキーピエロのマスコットである「ラッキーくん」の着ぐるみを着た人物。しかし、そのピエロの目は不自然に光っており、口元には笑みではなく、どこか暗く歪んだ表情が浮かんでいました。ミカは震えながらも声をかけようとしましたが、ピエロは何も答えず、ゆっくりと店内のキッチンへと歩き始めました。


彼女がその後を追うと、ピエロは調理台に座り、まるで何かを操作するかのように空っぽのフライヤーを動かし始めました。すると、フライヤーから油の匂いが立ち上り、彼女の周りには甘辛い唐揚げの香りが広がりました。しかし、調理台には何も焼いていないはずでした。


この異常な光景に耐えかねたミカは店外へ逃げ出そうとしましたが、店のドアは開かず、窓も閉じ込められたかのように固く閉まっていました。彼女が振り返ると、ピエロは今度は彼女の目の前で、まるで見えないハンバーガーを作るかのように手を動かし、彼女に向かって差し出しました。その瞬間、彼女は気を失いました。


翌朝、ミカは店の外で意識を取り戻し、店内を見ると昨晩の光景はどこにも見当たりませんでした。しかし、彼女が開店準備を始めると、調理台に一つだけ、誰も注文していないはずの「チャイニーズチキンバーガー」が完璧に作られていました。それ以来、彼女はあのピエロの目や笑みを忘れられず、特に夜勤の時は恐怖を感じるようになりました。


この怪談は、ラッキーピエロの各店舗で働くスタッフの間で囁かれ、夜の閉店作業は誰もが気味悪がる瞬間となりました。特に、函館駅前店では、夜になるとピエロの笑い声が聞こえる、あるいは調理場から奇妙な香りがするという話が、今もなお語り継がれています。

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