礼文島「花の島の亡魂」

礼文島は「花の浮島」とも称される美しい島ですが、その美しさの裏には恐ろしい話が伝わっています。特に、島の北端にある香深(かふか)海岸には、不思議な現象が起こると言われています。


ある夏の終わり、友人たちとキャンプに来た美咲は、花々に囲まれた香深海岸で夕日を見ることにしました。しかし、美咲は一つの花に目を奪われ、それを摘もうとしました。


「この花、見たことないな…」と呟きながら、彼女は花を手に取りました。すると、その瞬間、風が一変し、冷たいものが背中を通り抜けました。彼女は不思議に思いながらも、友人たちにその話をしました。


夜が更けると、キャンプファイヤーの周りで怪談話が始まりました。地元の人が話すのは、昔、この場所で船が難破し、多くの命が失われた話でした。特に、その中の一人の少女の霊が、今でも海岸をさまよっているというのです。


「その少女は、彼女のお気に入りの花を摘んでいたときに船が沈んだと言われています。以来、その花を摘んだ人は、悪夢を見るか、何か不幸に見舞われるのです」と地元の老人が語りました。


その夜、美咲は恐ろしい夢を見ました。夢の中で、彼女は海に引きずり込まれ、冷たい水の中で溺れていました。そして、苦しむ彼女の前に、白いドレスの少女が現れ、無言で手を差し伸べました。


翌朝、美咲は疲れ切って目覚め、昨晩摘んだ花が消えていることに気付きました。友人たちは彼女の話を笑いましたが、美咲は心がざわつき、島を早く出たくなりました。


島を離れる際、彼女は後ろを振り返ると、海岸にポツンと立つ少女の姿を見た気がしました。その瞬間、風が強くなり、花の香りが漂いました。


それ以来、美咲は不思議な現象に悩まされ続け、特に夏の終わりに訪れる悪夢は、彼女を恐怖に陥れます。そして、彼女は毎年、その時期になると、礼文島の花々が美しいだけではなく、何か恐ろしいものを封じ込めているのではと感じるようになりました。


今でも、香深海岸では夏の終わりに風が強く吹くと、少女の泣き声が聞こえると言われています。そして、その花を摘んだ者は、決して安らかな夜を過ごすことはできないのだと…。

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