柳さんによると10
柳さんは死体を見てから一か月後、再び死体を見ることになる。
その日は一日中おかしなことが続いた。
まず、派遣労働で行った事務所の撤収作業で、同僚の一人が足に事務机を落として大怪我をしている。
現場まで労働者を乗せてきた車が、駐禁の切符を切られそうになったので、誰かがその番をしなければいけなくなった。
尾形さんは派遣会社の社員から車を見ているように言われたのだが、社員から呼ばれなければ、その机は尾形さんが運ぶつもりだったらしい。
尾形さんは自分が運ぼうとしていた事務机が同僚の足に落ちたのを見て心底ぞっとしたという。
血だらけになった同僚を病院に連れて行ったり、てんやわんやになり、仕事が終わったのが五時半。
それから派遣会社の車に乗って、地元の駅まで戻ってきたときには七時になっていたという。
柳さんはそこから近所の安居酒屋に向かった。
しかし、その日はビール一杯も飲み切らないうちにひどい頭痛がしてきて、早々に居酒屋を出て、廃墟に戻ったそうだ。
居酒屋での滞在時間は一時間。
最初に注文していた料理が中々来ず、帰るに帰れなかったようだ。
駅前の居酒屋から、「〇州極楽ホテル」までは自転車で三十分。自転車を押して、坂をあがらなければいけないため、上りは徒歩よりも時間がかかる。
私も同じコースを柳さんと歩いたことがあるが、実際に三十分ほどかかり、柳さんがホテルに戻ったのは八時半。
廃墟に戻ると玄関先には例の女がいたそうだ。
女の周りにはネコが集まってきていて、エサをやりながらネコの頭をなでていた。
いつもなら彼女がいるときは、なるべく近づかないよう、かなり迂回することにしていた。
女の視界にも入らないように玄関を通り過ぎて、宴会場の割れたガラスから中に入るのだが、その日は頭が痛かったこともあり、女の脇を通り抜けて、玄関口から廃ホテルに入ろうとした。
そのとき女がさっと顔をあげて、柳さんを見た。
「いっかいせええ」
「いっかいせええ」
例の勧誘で、一回千円は少々安すぎるだろうと女の心配をしていたが、彼女の表情を見るうちに、彼女がまったく違うことを言っているのに気が付いた。
女は柳さんを物凄い形相で睨んでいた。
ネコのように歯をむき出しにして、目をカッと見開いていたという。
その顔を見たとき、柳さんは彼女がなんと言っていたかを理解した。
「ひっかいせええ」
「ひきかいせええ」
「引き返せええ!!!」
柳さんはぎょっとした。
女は一回千円などと言って、春をひさいでいたのではなかった。廃ホテルに近づくものをひたすら拒んでいたのだ。
柳さんはぎょっとしたものの、どうして女が廃ホテルに近づくものを拒んでいるのかが分からない。
柳さんは廃ホテルに住んでいるが、今までこれといった問題は起きていない。
死体を見たのも一か月前のことで、あのときは確かに死体を見たし、実際にこの手で触れた記憶があったが、結局死体が見つからなかったこともあって、あれは酔っていて錯覚を起こしたと自分を納得させていた。
強いて言うならあれくらいか。
三か月以上、ここに住んでいるが、何かあることの方が珍しいくらいだ。
女はなぜ、この廃墟に人が立ち入ることを拒んでいるのだろうか。
そもそも女は何物だろうか。
女は幽霊には見えない。
といって、人間のようにも思えなかった。
それなら神や悪魔か。
柳さんは、以前、女が肝試しに来た若者を脅かしたことを思い出した。
女は廃墟の階段をあがっている若者の前にふらりと現れると、「かわいそうに二十二歳、しかも病死」と若者の寿命を予言した。
それがもし本当の寿命だったとしたら、女は人間の能力をはるかに超越している。
神だろうか。
よほど恐ろしかったはずだが、柳さんはその日も廃墟で夜を明かしている。
その日は土曜日で、後に尾形さんも廃ホテルを訪れるのだが、駐車場から玄関口に至るスロープの隣に、柳さんの自転車を目撃している。
柳さんは一度、女の視界から消えると、ぐるりと駐車場を大回りして宴会場の方から廃墟に入った。
そのまま眠ってしまおうと思った。
しかし、女の気配をそこらじゅうに感じ取ってしまう。
目を閉じれば、目の前に。
立ち上がれば、背後に。
鏡を見れば、その奥に。
女が今にも姿を現すような気がした。
「俺は悪くない。俺は悪くない。こんなところをこのままにしておく奴が悪いんだ」
「どこにいても俺を追い出そうとするやつが悪いんだ」
「ここしかいる場所がないんだ」
柳さんはもはや誰に言い訳をしているのか分からなかった。
あるいはこういう心理状態こそ、本当に危なっかしい状態なのかもしれない。
柳さんが暗闇の中で目を開けていた。
そもそも白内障のせいで右目は良く見えかったはずだ。そのうえ真っ暗闇だから、柳さんが暗闇の中で何を見ようと目を開けていたのかは分からない。
実際は、目を閉じられなかったということだろう。
「わあああああああ」
という叫び声が聞こえたのはそのときだった。
柳さんは思わず立ち上がった。
女性の声だった。
建物内からしたはずだが、幻聴であることは疑いようもなかったはずだ。あれだけの恐怖を感じており、得体のしれない存在に怯えていたのだ。
柳さんは真っ先に自分がどうにかなってしまったんじゃないかと思ったはずで、事実、柳さんはそのときすぐに行動を起こしたわけではなかった。
ただ、暗闇の中でぼうっと立ちすくみ、次に起こることを待ち構えていた。何が見えるか、何が聞こえるか、柳さんはそれでも現実的に考えたい人だった。
だから、自分自身がどうなっていくのか、次の兆候を待ち構えていた。
柳さんがどれだけの時間そうしていたのかは分からない。
柳さんはごく短い間だったと言っていたが、その口調には言い訳めいたものがあった。
後に明らかになった事柄と照らし合わせて考えると、柳さんは実際には一時間も暗闇で立ち尽くしていたことになる。
「パリン」
今度は窓ガラスの割れる音がしたそうだ。
柳さんはその音が現実のものかどうかを確かめたくて、部屋の窓から外を覗いた。
すると、廃ホテルの玄関口から、男が走り去るところが見えた。
すでに例の女はいなくなっており、男は駐車場を横切って、そのまま公道に出て行ってしまった。
柳さんはハッとした。
その男の姿は、一か月前に死体を見たときの男とよく似ていた。大柄で、足が長く、黒いパーカーを着ており、異様に落ち着かない様子だった。
「もしかして……」
柳さんは言いようのない不安に取りつかれた。それは、先ほどまでの恐怖とはまったく異質なものだった。
柳さんは部屋を出ると階段を使って一階に降りた。
あたりは静かだった。
一階は、空間を仕切るものがなく、風が素通しになる。そのうえ、天井はやぶけてめくれ上がっているから、かなり寒かったはずだ。
柳さんはエントランスを歩いて、ゲームセンターの一画を通り、宴会場の前まで差し掛かった。
それを発見する前に柳さんは確信したそうだ。
それを見る前から、そこに何があるのか分かってしまい、自分の視線の動きや、その後の反応まで予測がついてしまう。
しかし、それを止めたり、途中で引き返したりすることはできない。
次に何が起こるかすべて分かり、そんなことにはなって欲しくないと思いながらも、すべてが確定事項のように進行していく。
こういうことは実際に起こるそうだ。
「これ!! 大丈夫かいな!!」
柳さんは地面に這いつくばった。
そのまま女性の身体を揺すり、息を確かめようとした。
しかし、それが無意味なことを柳さんは知っていた。
死んでいた。
すべてはまるで、あの日の出来事をリプレイするかのように進んでいた。それは嘘ではない。このとき柳さんは一か月前の死体が再び現れたと思っている。
かなり近寄って、死体を確認し、そのめくれあがったスカートや、力なく開いた足、執念深い目つきのまま固まった眼球を確認していながら、髪型や、服装、体型が違っていることに全く気付かなかったそうだ。
あるいは年を取ると若い女性はみんな同じように見えるというそれだけのことかもしれない。
しかし、結果的にはこの全く同じ遺体が再び現れたという証言が、真相解明をかなり遅らせることになる。
柳さんは飛び上がると、宴会場を突っ切って、庭に出た。
「尾形さん!! 尾形さん!!!」
尾形さんはタバコを吸いながら、能天気に釣竿の先を眺めている。
「どうしたんです?」
「まただ。また女が死んでる!」
「もう。そういうのはやめようって言ったじゃないですか。また飲んでるんですか?」
尾形さんは困ったように目を眇めた。
「いや、違うんだ。今日はほとんど飲んでない。ほんとうに死んでるんだよ」
「柳さん、本当に病院に行った方がいいんじゃないですか?」
柳さんはタバコを吸い続ける尾形さんの腕をひっつかんだ。
「そんなことを言ってる時間はない。消える! 消えてしまう!!」
柳さんは尾形さんの引きずるようにして死体のところに連れて行った。それは七十歳の老人の力とは思えないほどで、尾形さんも仕方なく柳さんの後に続く。
宴会場を通り抜けて、ゲームセンターまで到着するまでに一分とはかからなかったはずだ。柳さんが死体から目を離してから、尾形さんのもとまで走っていき、それから彼を説得して再び、死体のもとに来るまで、どれだけ遅く見積もっても三分もかかっていない。
しかし、二人が到着したときには死体は消えていた。
「どこにもありませんよ?」
尾形さんはかがみこむようにして、ゲーム機の影や、隙間を探した。
「そんなはずはない。確かにさっきまでそこにあったんだよ」
「それはこの前見たのと同じ死体でしたか?」
「同じだ。確かにこの前と同じだった」
「じゃあ、一体、誰が死体を動かしたりしてるんです?」
「それは……例の黒いパーカーの男だ。さっき、俺は自分の部屋の窓から見たんだよ。黒い異様に背の高い男が廃墟から立ち去るところを」
「なるほど。その男が女の死体を動かして、このゲームセンターの前に置いたと。柳さんは男が立ち去るのを見て、何か嫌な予感を感じて、一階に降りてみた。そこで死体を発見した」
「その通りだよ」
「それで、僕を呼びにきたら、物の数分の間に死体が消えていた」
「だから、そう言っている」
柳さんはそのときかなり苛立っていた。
「柳さん、言ってることがおかしいですよ。もし、黒い服の男が死体を動かして、死体をおもちゃにしてたとしましょう。それなら、黒い服の男が立ち去った後で、死体が動くなんておかしいじゃないですか」
「だから、俺は怖いんだよ。一体、なんなんだ、この建物は」
尾形さんは首を振った。
「柳さん、違いますよ。あり得ないんですって。そんなことは」
「あり得ないから怖いんだよ。この建物は呪われてる! 俺たちも既に……」
尾形さんは深刻な表情で言った。
「よく聞いてください。一つ一つ現実的に考えていきましょう」
「分かった」
「男が戻ってきて死体をどこかに隠したのなら分かりますよ。でも、それも考えられない。死体をおもちゃにしてたなら、普通、この廃墟を出るときに死体を隠すはずです。わざわざ立ち去ったのちに、再び、隠しに来る理由がない」
「俺もそう思う」
「だから、男が死体をおもちゃにしているという前提が間違っているんです」
「そうとは限らないよ。現に、五年くらい前に、後に連続殺人事件を起こす少年が、この廃墟の中でネコを殺してる」
尾形さんはこのとき途方に暮れていたはずだ。
その日、廃墟を後にした尾形さんのインターネットブラウザのタブには「妄想 説得する方法」「認知症 どう納得させる」などと調べた後が残っている。
しかし、実際に心霊現象が起こった可能性もまったく考えなかったわけではないようで、「心霊現象 死体が消える」などとも検索し、実際にそのような怪談を紹介したインターネット掲示板のスレッドをかなり念入りにチェックしている。
「柳さん、それも単なる噂ですよ。ぼくも気になって調べてみたことはありますけどね、その事件を起こした少年は、ここでネコを殺していたという証言すらしていない。ただ単に近くで起こった事件が、この不気味な建物と結びついただけでしょう? それにそういう事例があったとしても、それが死体をおもちゃにしている男が現れるという証拠にはならない」
「前例があるんだから、似たようなことがあっても不思議じゃない」
「でも、そう考えると死体が消えた説明がつかないんですって」
「じゃあ、なぜ、死体が消えたんだ? 尾形さんはそれを説明できるのか?」
尾形さんはこのような会話をしている最中、ずっと苦い表情をしていたはずだ。
まともな大人がこのような事態に直面したときの、奥歯に物が挟まったような言い方しかできない苦々しさを感じていたはずだ。
「一番、現実的な説明はですね。そもそも、死体なんて最初からなかったんですよ」
「死体がなかった?」
「同じ死体がなんども出たり消えたりするなんてあり得ないじゃないですか。この廃墟で何かが起こってるとも考えられない。僕だって、同じ道を通って、庭まで来て釣りをしてたんですよ? 死体があれば気が付いてなきゃおかしいじゃないですか」
「だから、それは黒い服の男が……」
「だから、それは関係がないんですって」
「関係がない?」
「はい。柳さんが死体と結び付けて考えようとしてるだけで、実際はただ肝試しに来た人なのかもしれないじゃないですか」
「じゃあ、死体はなぜあった?」
「だから、なかったんですよ。最初から。柳さんが恐怖に駆られて見えてしまったんですよ。『幽霊の正体見たり枯れ尾花』って言うじゃないですか」
「じゃあ、なぜ、今ここに来たときには見えなかったんだ?」
「それは僕と一緒で、少し恐怖が薄れてたんでしょう。落ち着いてじっくり見たから、それらしい影もちゃんと影として識別できたっていうことだと思います」
「あくまで俺の頭がおかしくなったと言いたいんだね?」
「こう言っちゃなんですけど、やっぱりこんなところに住むのが無理があったんですって。毎日、こんなところにいたら、それだけで神経が参っちゃいますよ。柳さんはもうお年なんですから、色んなことが頼りなくなってきますし」
「俺はまだ老いぼれてなんかないよ。今日だって、事務所の撤収作業で、三階から事務机を運んだんだ。若い男が自分の上に机を落として血だらけになったって言うのに、俺は弱音一つ吐かなかったんだから」
「体力があってもです」
「大体、尾形くんはどうなんだ? 君だってこんなところにしょっちゅう出入りしている。神経が参ると言うなら、君も来ない方がいいんじゃないか?」
「僕は一週間に一度か二週間に一度。それも、自分の楽しみで来てるだけです。そりゃあ、怖いなあと思うことはありますよ。こんな寂しい場所ですからね。でも、大きい魚影が跳ねるのを見たら、それだけで恐怖も吹っ飛びます。あれを釣るためにここに来てるんだって思えますから」
「心霊現象は端から信じないんだね?」
「怪談を信じてほしいんですか? 本当に体験したって」
「違うよ。俺は本当に死体を見たんだ。だから、大変なことが起きてると思ってる」
「でも、死体はほんの数分で消えてしまった。それも犯人とおぼしき人物が立ち去った後に。そんなことが現実に起こるなんてあり得ないでしょう? だから、現実的に考えて、柳さんの見間違いだと考えているんです」
「それが心霊現象だとしたら? こんな不気味な場所だ。ふいに死体が現れて、消えることもあるかもしれない」
「心霊現象を信じてほしいんですか?」
「だから、違うって言ってるだろう? 俺は人が死ぬなんて重大なことだと思ってるんだ」
その夜、この奇妙なやり取りを二人は何度も繰り返している。
柳さんは尾形くんは頭が固いと言って苦い顔をしていたが、柳さんの反論はブレブレで、これが尾形さんを相当苦しめたことが想像できる。
死体が消えるなんて現実的ではないと言えば、心霊現象だと言い、心霊現象を信じてほしいのかと聞かれれば、現に誰かが殺されていると大騒ぎしている。
柳さんはそれだけ必死だったに違いないが、それゆえに支離滅裂な言動が目立つようになり、尾形さんは認知症の疑いを強くする。
「だったら、警察に通報すればいいんじゃないですか?」
尾形さんは諦めたように言った。
「警察に通報したって死体がなかったら信じてもらえないだろう」
「そうでしょうね」
「俺は警察なんて関わり合いになりたくないんだ。でも、本当に人が死んでいて、誰かが命を奪われたというなら、放っておきたくはないだろう?」
「それで、僕にどうしろと?」
「分からないんだよ。むしろ、尾形さんが俺に教えてほしい。俺はどうしたらいい?」
尾形さんは遠慮がちに言った。
「ここから引っ越すことですね。ぼくもこんなところにいるのが、本当に嫌になってきました。お互い、もうここには来ないことにしましょう」
「それは困る。俺はここしか住むところがないんだ。こんな寒い真冬に、雨風を凌げる場所がどこにある? 落ち着いて眠れる場所がどこにある?」
公園のベンチはホームレス対策の、ひじ掛けにもならないような仕切りがあり、横になることはできない。
ホームレス狩りをする若者もいれば、少し居座っているだけで市に苦情を入れる人もいる。
私は別に柳さんの言い分が正しいとは思わない。しかし、こんな廃墟に居座り続けるには、柳さんなりの理由があるのだ。
「じゃあ、忘れるしかないですね。死体はなかった。すべては勘違いだった。そう考えることにして、気にしないようにして暮らしていくしかないでしょう?」
「分かった。忘れることにするよ。もう気にしない。尾形くんもたまにはうちに来てくれるだろう? また釣りに来たらいいじゃないか」
「うちって、柳さんの家じゃないんですから」
「でも、もう嫌になったなんて言わないでくれよ。色々あって、楽しかっただろう? 二人で、イワナの塩焼きを食べたじゃないか」
「そうですね……あれは中々楽しかった」
「だろう? 俺はもうあのことは忘れる。おかしな言動もしない。だから、また、楽しくやろうじゃないか。尾形くんもヌシを釣りたくてウズウズしてるんだろう?」
「ええ、まあ、それは……」
「それじゃあ、また来週も来てくれよ」
尾形さんは不安そうな柳さんの顔を見て、渋々、来週も来ることを約束した。
尾形さんは釣り道具を片付け、駐車場に停めていた車まで運び込んだ。
「じゃあ、今夜はこの辺で、おやすみなさい」
尾形さんが運転席に乗って、シートベルトを締める。わずかに開いた窓の隙間から、尾形さんの白い息が漏れている。
「あ、そういえば……」
柳さんはそこで先ほど起こったことを思い出した。
「今日、はじめて例の娼婦と目があったんだ。ほら、いっかいせええ、いっかいせえぇって繰り返すあの子」
「ああ。どうでしたか? 一回千円でものになりましたか?」
尾形さんは久しぶりに笑みを見せた。ふいに緊張を緩んだようだ。
「いや、それが彼女は娼婦でもなんでもなかったんだよ」
「まさか。耳の不自由な娼婦で、店で雇ってもらえず、ここで春をひさいでるんだって話ですけど。だから、一回千円なんて格安なんでしょう?」
「耳が不自由かどうかは知らんが、彼女は一回千円だなんて言ってなかったんだ。引き返せ、引き返せって、ここに人が来るのを拒んでたんだ」
そう言った途端、尾形さんの顔が真っ青になった。
「何が目的で? それなら彼女は一体、何者なんです?」
柳さんはそれには答えず、にやっと笑った。
「どうだ? 少しは怪談じみてきただろう?」
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