怪談④
タイトル:「彼女の嘘」
(採取日:2021年 8月21日 「ゲームバー【INN】怪談ナイト2021」というイベントにて、話者:二十代 会社員の男性)
あの……嘘かもしれない話なんですけど、良いですか?
というより、多分、嘘なんです。
ぼくが今付き合ってる彼女なんですけど、人の話を盗る癖があるんです。
友だちから聞いた話とか、友だちの身に起こったこととかを全部、自分が経験したことにして話すんです。
それも自分が経験したことにした方が臨場感があるからとか、聞いてる人が面白いからとかそういう話術として、自分が経験したことにして話すんじゃないんです。
彼女が盗る話は、どれもすごく悲しい目に遭ったとか、怖い思いをしたとか、痛い目にあったとかそんな話なんです。
それをすごくつらそうに語って、周囲からの同情を引くのが癖になってるんです。
え、そういう女の子とはすぐに別れた方が良い?
うーん、そうなんでしょうけど、それ以外は割といい子で、料理とか洗濯もそつなくこなすし、顔も割とタイプなんで、中々離れられないんですよね。
でもね、彼女、話を作ったりはしないんですよ。多少盛ることはあるんでしょうけど、全部元となる話があって、共通の知人が何かの愚痴を言ったりするでしょう?
そうするとこの話どっかで聞いたことあるなあ、と思いながら聞いてると、彼女がこの前話してた話と全く同じだって気が付くんです。
だから、人の話を盗るんですけど、話を作ったりすることはないんですよね。そこまでするようになったら、さすがに怖いですけど。
これはぼくの彼女が話した話で、だから、実際には彼女は経験してはいないんでしょうけど、きっと何か似たような話を聞く機会があったんでしょうね。
だから、部分的には本当の話だと思うんです。
ぼくの彼女って、酔うと警戒心がなくなるんですよね。
普段は危ないことを進んでするタイプじゃないし、どっちかというと控えめなタイプなんですけど、酔っ払うとすごく大胆になって、この前も晩ご飯を食べて、僕がうたた寝をしているうちに、酔いさましとか言って深夜徘徊をしてたんです。
夜中の商店街とか、住宅地とか、多少暗い道でもぶらぶらと歩いていっちゃうんですよ。
そんな彼女が、何年か前に忘年会があって、ぼくもなるべく飲み会のあとは迎えに行くようにしてるんですけど、どうしてもその日は忙しくて迎えに行けなかったんです。
それで彼女、ぼくが来ないから一人で帰ることにしたらしいんですけど、酔っ払って怖いもの知らずになってるから、知らない道をどんどん歩いていったんです。
そのうちにすごく寂しい場所に来ちゃって、ぐるっと迂回してもと来た道に戻れそうな裏道を見つけたんです。
そこで引き返せばよかったんですけど、通り抜け出来るかなと思って、そっちの方にいっちゃって、そしたら彼女、強姦魔にあったんですよ。
突然、後ろから抱きつかれて、胸とかもまれながら押し倒されて、服とかも脱がされそうになったんです。
「いやっ!!」って叫んだみたいなんですけど、本当に怖いときって、声が出ないんですよね。細い悲鳴をあげただけで、周りの家の住人になんか届きませんよ。
それで、もう駄目だと思って絶望してたら、裏路地を女の人が通ったんです。
その女の人、嫌がる女に男がのしかかってるのも気にしないみたいで、裏路地に入って来て、彼女を心配するでもなく、男を止めに入るでもなく、すーっと通り過ぎたんです。
普通、そんな危ない現場に遭遇したら、裏路地なんかに入って行きませんよね?
もし、途中で気がついたら、声をかけるなり、慌てて走り去るなりしそうなものじゃないですか。
それが、まったく見えていないみたいに素通りしたみたいなんです。
「助けてっ!!」
彼女は叫びました。
そんなに大きな声が出たわけじゃないんですけど、強姦魔からしたら流石にこのまま続けるわけにもいかない。素通りされたとは言っても、現場は見られてるわけだし、女が安全な場所まで行ったあと、警察に通報するかもしれないじゃないですか。
だから、彼女からは逃げていったんです。
彼女は幸いにも犯されることなく解放されたんですけど、あの女の人はなんだったんだろうって。
彼女も強姦魔も見ているから錯覚ってことはないと思うんです。
でも、幽霊にしてはハッキリしてたっていうか、強姦されかけたら幽霊が現れて助かったなんて話出来過ぎだと思いません?
目の見えない女性だったんじゃないかって話もしたんですけど、そんな風にも見えなかったって。
どっちにしても強姦されてる女を素通りにして歩いて行くなんて普通じゃ考えられないじゃないですか。
夢遊病者ならそういうこともあるんですかね?
ぼくの話はこれだけですけど、彼女はこの話を語るときに、商店街を抜けて、変なところにたどり着いたって言ったけど、ぼくらが同棲している家の最寄にも、彼女の会社のある駅にも商店街なんてないんですよ。
まあ忘年会だからどこで飲んでたのかは知りませんけど、ふつう酔い覚ましにぶらぶらするにしても最寄りの駅まで帰ってからしそうなものじゃないですか。
だから、また誰かの話を盗っちゃったんだなと思って、真面目に聞いてないんです。本当に自分の彼女が強姦されかけたなら、こんなに冷静には話せませんから。
でも、誰の話を盗ってきたんですかね。
その人は本当に強姦されかけて、そこに幽霊みたいな女が通りかかったんでしょうか。
こんな話しかできませんけど、これでもいいですかね?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます