第5話 静寂の裏に潜むもの
街灯の明かりが途切れ途切れに照らす夜道を、葉山翔は歩いていた。疲れた足取りでアパートの階段を上り、自室の前に立つと、ポケットから鍵を取り出した。鍵を挿しながら、ふと周囲を見回す。玄関前の廊下は静まり返り、誰もいない。
「……まあ、昨日のはただの悪夢だよな。」
小声でそう呟き、自分を納得させるように首を振った。昨夜の出来事は、どう考えても現実感に乏しかった。老婆の顔や声は、不気味ではあったが、冷静に振り返れば、疲れやストレスから来る幻覚のようなものだったのかもしれない。
部屋に入ると、いつもの静けさが迎えてくれた。靴を脱ぎ、リビングに入ると、何の変哲もない日常の光景が広がっている。ソファの上には昨夜読みかけの本がそのまま置かれ、コーヒーカップもそのままだ。窓の外には隣のビルの灯りがぼんやりと揺れている。
「……何もない。普通だ。」
翔は深く息を吐き、ネクタイを緩めながらキッチンに向かった。冷蔵庫を開け、ペットボトルの水を取り出すと、一気に飲み干す。冷たい液体が喉を通り抜ける感覚が心地よかった。
「明日は早いし、さっさと寝るか。」
時計を見ると、すでに深夜を回っていた。リビングの照明を消し、部屋を薄暗くする。静かな空間に慣れると、昨夜の記憶が再び頭をよぎったが、翔は無理やりそれを打ち消した。
「気にするだけ無駄だ。」
そう呟きながら寝室へ向かう足音が、静寂の中に響く。ドアの前で一瞬立ち止まり、取っ手に手をかけた。
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